2020年に石川県金沢市への移転が予定されている、東京国立近代美術館工芸館。そのデザインコレクションを一挙に紹介する展覧会「所蔵作品展―デザインの(居)場所」が開催される。
工芸作品のみならず、現在工業デザイン192点、グラフィックデザイン776点を収蔵する同館。1988年に、インダストリアルデザイナーの先駆者と呼ばれるクリストファー・ドレッサーや、アール・デコ様式の家具デザインで知られるピエール・シャローなどの作品が収蔵され、以来少しずつその数を増やしてきた。
本展では、そんな同館のコレクションからデザイン作品と工芸作品をあわせた約120点を紹介。「デザインの(居)場所はどこ?」という問いに対する答えを、国境・領域・時間の3つの視点から考える試みだ。
世界の様々な場所で同じものが手に入るようになった現代。しかし、19世紀からの近代デザインの歴史に目を向ければ、大量生産の起点となったイギリスの産業革命、アール・ヌーヴォーやアール・デコといったフランスの装飾様式、ドイツの美術学校・バウハウスが提唱した規格化など、国によって様式や思想が異なっていたことがわかる。
美術と実用のあいだで生まれた新しい造形にも焦点を当てる本展。イサム・ノグチの代表的な照明シリーズ《あかり》や、一時は絵画の道を目指して画家・猪熊弦一郎に師事したクラフト・デザインの作家、青峰重倫の作品などを紹介する。また、1973年にエンツォ・マーリが発表した陶磁器のシリーズ「SAMOS」全21種類の展示も見どころのひとつだ。
また、デザインと時間の関係性にもフォーカスし、柳宗理や森正洋らによるロングライフデザインの代表的な作品とともに、平成元年に制作されたポスターを展示。長く親しまれる家具や日用品と、一定期間を過ぎると役目を終えるものの対比から、デザインの寿命について考察する。
本展ではこれに加え、53年に東京国立近代美術館ではじめて開催されたデザインの展覧会「世界のポスター展」に関する小展示も実施。豊かなコレクションで、身近でありながら掴みどころのない「デザイン」の存在を再考できる内容となっている。