バルビゾン派の画家として知られ、のちのクロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホなどに影響を与えたシャルル=フランソワ・ドービニー。その初期から晩年までの作品を紹介する日本初の回顧展が、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催される。
ドービニーは1817年のパリに生まれ、風景画家の父から手ほどきを受けて35年から画家を目指す。はじめは古典的な作品を描いたが、次第に身近な自然の美しさを表現することに専念するようになる。50年頃からはバルビゾン派の先駆けとなったカミーユ・コローと各地を旅し、共同で制作。2人は20歳近い年の差を超え、生涯を通じて親交を結んだ。
50年代には池や川などを描いた作品に注目が集まり、徐々に「水辺の画家」としての名声を確立していったドービニー。いっぽうで、筆の跡を残した様式が「印象」を荒描きした未完成な作品に過ぎない、という印象派を彷彿とさせる批判を受けることもあった。
そしてドービニーは57年にアトリエ船「ボタン号」を、68年にはさらに規模の大きな「ボッタン号」を入手。セーヌ川をノルマンディー地方から英仏海峡まで航行し、水辺の景観を数多く描いた。
晩年は痛風の療養をしながら制作を続けていたドービニー。77年に息子とともに出かけたボッタン号での航行が最後の旅となり、翌78年2月にパリの自宅で亡くなった。晩年の作品は画面はやや暗く、要素を残しつつも、大胆な筆跡はより印象派の様式に近いものとなっている。
そのほかにも本展では、ドービニーが生涯を通じて多数制作した版画も展示。ドービニーによる原画を版画化して62年に出版された「船の旅」から、ユーモアあふれる水辺の動物たちとともに繰り広げられる、船上の昼食や魚釣りなどの様子を見ることができる。
初期から晩年までのドービニーの作品約60点と、ギュスターヴ・クールベやオノレ・ドーミエ、息子のカールなど、周辺の画家たちによる作品約20点を紹介する本展。この機会に、ドービニーが描いた水辺の旅を心ゆくまで楽しみたい。