クレパスは、クレヨンとパステルをもとに、サクラクレパス社が1925年に開発した日本独自の描画材料。発色がよく、混色や塗り重ね、引っかくなど幅広い表現が可能なこと、また持ち運びも容易だったことから、油絵具の入手が難しかった第二次大戦直後に多くの画家たちに注目され、油絵に劣らない作品が多く描かれた。
そのようなクレパス画に焦点を当てた展覧会「巨匠たちのクレパス画展」が7月14日から9月9日まで、東京・新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催される。クレパス開発と普及に関わった画家・山本鼎をはじめ、岡本太郎、梅原龍三郎、小磯良平、熊谷守一、猪熊弦一郎など、近代画壇の巨匠から現代までの作家たち100人超が描いたクレパス画約150点が展示される。作品はいずれもサクラクレパス社が運営するサクラアートミュージアム所蔵のもの。同館のコレクション約900点のうち、クレパス画は約500点におよぶ。
展示される作品は、ダイナミックな鳥と繊細な陰影で太陽を描いた岡本太郎の《鳥と太陽》(制作年不明)や、クレパスならではの発色を巧みに使い分け、表現豊かに仕上げた猪熊弦一郎《顔》(1950)、花を優雅に描いた三岸節子の《花I》(1940)、そして熊谷守一の《裸婦》(制作年不明)など、画家によって異なるクレパスの表現を見比べながら楽しむことができる。
クレパス画を多数残している小磯は「クレパスに専門家用があるからには、もっと専門家がこれを用いていいはずである。子供にも用い易い材料でこれだけ油絵具に似た鮮明度をもつ材料は、他にはない」と述べており、その使い心地を称賛。本展では、そんなクレパスの誕生のエピソードや社会背景、歴史の紹介や、これまでの商品パッケージ、700色にもおよぶクレパスも展示。多方面でクレパスの魅力に迫る。
戦後日本の画家たちの表現を支えたクレパス。その表現の拡がりと違いを楽しみたい。