ジョン・ラスキン(1819〜1900)は19世紀の美術批評家・思想家。ラスキンは1843年、弱冠24歳にして『現代画家論』の第一巻を発表。当時、荒々しい描き方を実践しはじめたばかりだったウィリアム・ターナーを擁護した。ラスキン自身も素描を日常的に行い、その後もターナーの研究に力を注いだという。
その後、ラスキンが出会ったのがラファエル前派同盟(ラファエル前派兄弟団)だった。ラファエル前派同盟は48年に結成。彼らは、ラファエロ以降の絵画表現を理想とするロイヤル・アカデミーの保守性こそが英国の画家を様式に縛り付けているとし、ラファエロ以前に回帰し、わかりやすく誠実な絵画を求める必要を訴えた。
運動の中心となったのは、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティや《オフィーリア》で知られるジョン・エヴァレット・ミレイ。ラスキンはいち早く彼らを擁護し、51年には『タイムズ』に公開書簡を発表。ロセッティやミレイとの親交がはじまったのはこの後のことである。
ラファエル前派同盟は社会の基盤が揺れ動く時代において、人々に大きな衝撃をもたらした。彼らに多大な影響を受けた芸術家のなかには、エドワード・バーン=ジョーンズとウィリアム・モリスがいる。
バーン=ジョーンズはラスキンの助言を受け、神話や文学的な主題にもとづいた絵画を制作。モリスは家具や織物などの装飾芸術や書物のデザインを多く手がけ、その活動は後のアーツ・アンド・クラフツ運動の先駆けとなった。
今回、三菱一号館美術館で開催される「ラファエル前派の軌跡」展は、ロセッティ、ミレイ、ハントらラファエル前派同盟の作品を中心に構成。また、ラスキンがその評価の確立に与したターナーの油彩画・水彩画や、ステンドグラス、家具など約150点が並ぶ。この機会にラスキンの眼差しを通して、ラファエル前派とその周辺の豊かな成果を楽しみたい。