パリのヴァンドーム広場に軒を連ねるジュエラーのなかでも、1780年創業というもっとも長い歴史を誇るショーメ。ナポレオン1世と皇妃ジョゼフィーヌの御用達ジュエラーとしても知られ、現代にいたるまで伝統を重んじつつ革新性を追求し続けているブランドだ。
本展はルーヴル美術館名誉館長アンリ・ロワレットと三菱一号館美術館長高橋明也が監修し、18世紀後半から現代までの約240年におよぶショーメの伝統と歴史を紹介する日本初の展覧会。ダイヤモンドをはじめとする希少な宝石が散りばめられた豪華絢爛なティアラやネックレスなどの宝飾品を中心に、未発表のデザイン画など約300点が紹介されている。
冒頭を飾る第1章「歴史の中のショーメ」の展示室に入ると、時の権力者たちの堂々たる肖像画とともに、歴史を彩ったジュエリーが並ぶ。
1804年にフランス皇帝についたナポレオンを飾る壮麗な宝石のセットを担当したのが、ほかならぬショーメの創業者、マリ=エティエンヌ・ニトだった。その後も19世紀を通じて貴族の顧客を獲得し、ショーメはジュエラーとしての地位を確固たるものとする。展示されている肖像画に描かれている宝飾品と、当時制作された貴重な品々を見比べると、その歴史の重みが感じられる。
本展でもとくに注目したいのが、贅を尽くしたティアラの数々がまばゆい第3章「戴冠!ティアラの芸術」だ。職人による技術の高さとデザイン性、そして宝石の美しさをじっくりと堪能できるほか、この展示室にはマイヨショール(レプリカ)も紹介されている。顧客がティアラを注文する際には、このレプリカを見て好みのデザインを選ぶという。ショーメのデザインの幅の広さがわかる貴重な資料だ。
ティアラはベル・エポックの時代において、女性たちが上流階級の仲間入りに必要不可欠なものだった。成功と財産を体現するという役割を担うとともに、女性の美しさをもっとも引き立てるアクセサリーとして愛されてきたティアラは、ショーメの歴史の中でも重要なもの。ぜひすみずみまで、そのこだわりぬかれた芸術品のデザインと細工を堪能したい。
また、本展ではユニークなデザインの宝飾品も紹介されている。第5章「自然を披露する」では、動物や植物をモチーフにしたものが展示されており、遊び心あふれるデザインを楽しめる。
そして展覧会最後を飾るのは、第8章「遥けき国へ―ショーメと日本」だ。ショーメと日本のつながりについて、19世紀後半のジャポニスムの影響を受けた作品や、本展のために特別に制作されたジュエリーセットを、桜が舞うプロジェクションマッピングとともに紹介。伝統あるジュエリーと映像のコラボレーション、その展示手法にも注目したい。
展覧会開幕に際し行われた記者発表では、ショーメCEO ジェネラルディレクターを務めるジャン=マルク・マンスヴェルトが「ショーメは、パリの技術、芸術、文化、宝飾の歴史の証人と言えます。メゾンはつねに新しいものをつくろうとしていますが、その歴史が現在の創造に役に立っています。そうして完成した品々をこの展覧会で見ていただきたい」とコメント。
監修を務めた三菱一号館美術館長の高橋明也は、本展について「これまで、デザインの展覧会はこれまでも開催してきましたが、ショーメの展覧会はひとつの冒険です。美術館のコンセプトのひとつが社会における輝く女性。その点でショーメに関心を抱きました」と語った。
同じく監修者であるルーヴル美術館名誉館長のアンリ・ロワレットは、高橋とは40年来の友人であることに触れながら「三菱一号館美術館というパートナーは、部屋によって違う展示の仕方ができるのでこれ以上ない空間はありません」と自信を見せた。「ショーメは素晴らしい創造を行ってきました。たんなる宝飾品としてだけではなく、類ないノウハウを持った職人たちによってつくられています。今回は様々なところから作品をお借りしている、驚くべき展覧会です。この規模は東京が最初で最後となるでしょう」。
宝飾品をはじめ、マリー・ローランサンらによる油彩画や貴重なデッサン画など、様々な観点からショーメの歴史にふれることができる展覧会だ。