1970年代より主観的な視点で展開する自らの写真を「私写真」と称し、自身の日常を取り囲む私的な対象物を数多く撮影してきた荒木経惟。今日までの約半世紀で写真集500冊以上に及ぶ膨大な数の作品を発表してきた。
今回、東京・青山のRAT HOLE GALLERYで開催される個展「片目」は、網膜中心動脈閉塞症により右目の視力を失った5年前から現在に至るまでに荒木が撮影した、1000点を超えるモノクロ写真を紹介するもの。
35ミリのモノクロフィルムを用いてすべて縦位置で撮影された作品群は、女性のヌード、しおれた花、奇妙な人、玩具のほか、街路や車窓の風景、自宅バルコニーから撮影された空や外景など、これまでの荒木作品においても主要なモチーフとなっていた、日常のなかのきわめて私的な対象物が数多く含まれる。
5年という歳月にわたって撮影された大量の写真は、自身の身体がもたらす制限と折り合いをつけながら生活を営む荒木の「生涯のとある1章」を親密に物語り、本展ではそれらを単線的な時系列や順序を設けることなくシャッフルし、壁面を埋め尽くすかたちで展示される。
展覧会タイトルとなっている「片目」は、荒木の身体のみならず心理の現状を示唆し、「生/死」をとらえることへの強い意思表明の表れでもある。なお本展のオープニングにあわせて、同ギャラリーより写真集『片目』を400部限定で刊行する。