1970年代初期より荒木経惟は、主観的な視点で展開する自らの写真を「私写真」と称し、被写体との極めて私的な関係性を撮影。今日までの約半世紀の間に写真集500冊以上におよぶ膨大な数の作品を発表してきた。
1990年の愛妻・陽子の死後は、エロス(生/性)とタナトス(死)の表裏一体の関係性が色濃く写しとられ、また2000年代後半から自身に降りかかった度重なる病魔や、身体と精神に表れる老いまでもが作品として結実していく様は、昨年催された国内外の展覧会でも広く紹介された。死を覚悟し、まるで余生を惜しむかのように開催された20以上もの個展を通じ、荒木は「死から生に向かう」ように自身の写真に励まされ、今日も精力的に制作を続けている。
荒木にとってモノクローム写真は、元来「死」を象徴するものとされてきたが、「恋夢 愛無」と題された本展で公開される99点の最新作は、ほとんどが中判モノクロームフィルムで撮影されたものである。昨年以降、止まっているはずの被写体に対して微動を感じたという荒木は、被写体を殺さないように微動するままを撮り下ろそうと試みているという。
「究極の写真はモノクローム」と断言し、あくまでもフィルムでの撮影を基本とする姿勢には、荒木が大切にする愛や情緒はフィルムの乳剤面でのみ写しとることができるという、写真家としての確信がうかがえるだろう。