1950年、日本アヴァンギャルド美術家クラブ主宰で行われたイサム・ノグチの歓迎会で初めて出会ったイサム・ノグチ(1904〜88)と岡本太郎(1911〜96)。彫刻家として世界的に活躍していたノグチと、パリで青年期を過ごしたのち帰国し、日本芸術を異邦人の目で見ていた岡本は、ともに欧米で活躍し、「越境者」として新たな表現活動を展開した。
今回、神奈川県の川崎市岡本太郎美術館で開催される「イサム・ノグチと岡本太郎 ―越境者たちの日本―」展は、そんな2名の芸術家にフォーカスした初の展覧会となる。「越境者」としてのノグチと岡本が見つめた「日本美」を、それぞれの作品を通じて再確認することを試みるものだ。
本展は7章構成。「日本」へ深い関心を持つ、個性の異なるふたりの芸術家の接点をたどる第1章に始まり、続く第2章では、戦後日本における日本の民主化/非軍事化に逆行するとされた「逆コース」政策のもと、共産主義の思想を持つ者が公職や企業から追放された50年代のノグチと岡本にフォーカス。縄文土器に着目した岡本と、日本石器時代の土偶に興味を示していたノグチとの、それぞれの作品から見出される日本観の相違に迫っていく。
第3章では、ノグチが建築家・谷口吉郎との協働により制作した慶應義塾大学構内のスペース萬來舎(ノグチ・ルーム)の移設の事例と、岡本による旧東京都庁《日の壁》の陶板壁画の取り壊しの事例をもとに、芸術の保存と破壊について考察することを狙う。
そして、輸出用に制作された粗悪な美術工芸品「ジャポニカ」や、建築ジャーナリズムを賑わせた「伝統論争」などが台頭した50〜60年代の日本のデザインをたどる第4章、ノグチと岡本による生活のなかの芸術を紹介する第5章、「伝統論争」を経て、いよいよ新たな様式が生み出された60年代にノグチと岡本が残した作品に着目する第6章へと展開される。
最終章は「庭 —空間の彫刻」と題され、ノグチと岡本にとって重要なテーマであったとされる「芸術と人と場」に基づき、厳選された作品が展示される。彫刻と人間とを包み込む場としての「庭」あるいはプレイグラウンドの創作へと向かったノグチ、作品の内側に人間を内包する場として、数多くのパブリック・アートを手がけた岡本の、それぞれの活動の軌跡を振り返る。
本展は、戦後の芸術界に大きな影響を及ぼした2名の芸術家の作品を通じて、「日本」あるいは「日本美」とは何かについて再確認する機会となるだろう。