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2018.7.14

初来日作品も。イサム・ノグチの全容を紹介する展覧会が東京オペラシティ アートギャラリーでスタート

彫刻の概念をベースに、舞台美術や家具、照明器具、陶芸、庭、ランドスケープ・デザインまで、多彩な活動を展開したイサム・ノグチ。作品、資料約80点をとおして活動の全容を紹介する展覧会が初台の東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。

展示風景より
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 世界文化を横断し、彫刻をはじめ舞台美術や家具、照明器具「あかり」のデザイン、陶芸、庭、ランドスケープ・デザインまで、幅広く制作を行い、世界的美術家と謳われたイサム・ノグチ。

 作品、資料約80点で「異文化の融合」と「生活と環境の一体化」を目指したノグチの活動の全容を紹介する展覧会が、初台の東京オペラシティ アートギャラリーで7月14日にスタートした。

展示風景より。「北京ドローイング」シリーズ

 本展の見どころのひとつは、若き日のノグチが制作した活動の出発点「北京ドローイング」だ。1930年、北京へ赴いた26歳のノグチが墨と筆による伝統的な手法を用いて北京の人々を描いた「北京ドローイング」。1章「身体との対話」では、身体の動き、量感へのノグチの関心が伺える「北京ドローイング」を日本で初公開する。

展示風景より。《えらいやっちゃほい(金太郎)》(1931)
展示風景より。《鏡》(1944[1944鋳造])

 また1章では、北京の翌年に訪れた日本で手がけたふくよかな身体像を特徴とする焼き物、舞踏家のマーサ・グラハムとの協働作業によって生まれた舞台装置としての彫刻作品なども紹介。後の多彩な作品のベースに、「身体」というテーマがあることが示されている。

展示風景より

 続く2章「日本との再会」は、1950年、19年ぶりの来日を果たした壮年期以降の活動にフォーカスする。彫刻家として世界の第一線で活動を始めていた45歳のノグチ。建築家の丹下健三や谷口吉郎、デザイナーの剣持勇、画家の猪熊弦一郎や岡本太郎といった人々との親交を深めながら、広島の橋(欄干)や原爆慰霊碑など、様々なプロジェクトに参画した。

 いっぽう、北大路魯山人が提供した北鎌倉の農家で新婚生活を送ったノグチは、自身が「陶器による彫刻」ととらえたテラコッタ(陶彫)の制作にも熱中。日本の自然や伝統を現代的でユニークなかたちへと転化させた。

展示風景より。右から《かぶと》(1952)、《柱壺》(1952)
展示風景より。《2mのあかり》(1985)

 この章では、「あかり」シリーズも一挙に展示。ノグチが岐阜県を訪れデザインした照明器具「あかり」は良質な和紙と紙、竹を素材とする美濃地方の伝統的な提灯をモダンに甦らせたもの。「光の彫刻」とも称され、いまなお幅広い人気を集め続けている。

展示風景より。《スライド・マントラの模型》(1966-88)
展示風景より

 3章「空間の彫刻—庭へ」では、日本庭園をとおして彫刻家としての原点を見出したノグチによる造形を紹介。自身が「彫刻的ランドスケープとしてのプレイグラウンド(遊園地)の原種」だと語った《プレイ・マウンテン》(1933)のブロンズや、石庭からインスピレーションを受け制作し「私の龍安寺」と呼んだ《チェイス・マンハッタン銀行プラザのための沈庭園》(1961-64)の模型を展示。「庭」に対するノグチの思考を紐解く。

展示風景より
展示風景より。《空間のうねり #2》(1968)

 そして最終章「自然との交感—石の彫刻」では、60年代以降の石の作品に着目する。青年期にはブランクーシに師事し、彫刻という生涯にわたる活動のベースを築いたノグチ。60年代以降は、高硬度の石を「宇宙の根本物質」とみなし、石の直彫りによる制作を継続的に手がけた。

 本章では、ゆったりとした間隔とともに各彫刻作品を配置。ノグチの石に対するアプローチ、全活動の根源となる彫刻への思索が生き生きと伝わってくる。

展示風景より

 今年没後30年を迎える作家の、日本国内では12年ぶりとなる回顧展。彫刻を基軸に、身体、庭、環境へと活動を拡張し続けたノグチの思想に触れる貴重な機会となるだろう。