ポップな表現の裏に暗さと狂気がある
広い展示空間の壁面に掛かる2点組みの《SELF-PORTRAIT(セルフポートレイト)》(1977年頃)は、もとになっている写真は左右で同じだが、色味や像の角度を変えることで、異なる表情を見せている。反対の壁にある《THE SHADOW(シャドー)》は1981年のシルクスクリーン作品で、セルフポートレイトではあるが実体より影のほうをメインに描き出している。藤原は本作を次のように見る。

「ちょっとした視点の転換で印象が大きく変わる不思議さと面白さを、シンプルな表現でまとめていますね。影を強調した作品のほうは、ウォーホルの内なる暗さと狂気がにじみ出ているかのよう。ダークサイドと狂気というのはアートの源泉であり、本質だと思います。僕もそのふたつは内に秘めて、とても大切にしているつもりです」。
フランツ・カフカやアルベルト・アインシュタインらの肖像を色鮮やかに刷った《TEN PORTRAITS OF JEWS OF THE TWENTIETH CENTURY(20世紀のユダヤ人10人の肖像)》(1980)を経て、通路状のスペースへ進むと、ウォーホルが被写体となった写真群が並ぶ。ウォーホルは収集癖があり、自分が写ったスナップショットや新聞・雑誌記事の切り抜きを膨大に集めており、それらはいま歴史的資料にもなっている。そして展示の最終地点にあるのは、ロバート・メイプルソープがウォーホルの晩年の姿を撮った写真作品だ。本作を見ながら、本展について藤原は次のようにまとめた。

「どこか寂しげな表情が、印象的で美しいです。ウォーホルは作品を量産すると同時に自分の姿もたくさん表に出しています。セルフプロデュースをする表現者の“はしり”でしょう。こうして展示を見ていくと、僕らが慣れ親しんでいる表現や文化の原点の多くが、ウォーホルにあることがよく理解できます。ウォーホルとその作品は、いまなお見る価値がたくさんあるのだと思います。トレースや複製の概念をアートに導入したウォーホルですが、それでもやはり実物の作品にふれるとたいへん面白いし、気づきが多いと感じました。ウォーホルがシルクスクリーンを始めたとき、それは最新の技法でありデジタル感があったのでしょうけど、いま見ると当時の彼のシルクスクリーン作品はアナログっぽさに満ちています。手作業の部分があったわけですから、フィジカルな感覚が含まれているのです。当時と現在では、複製という言葉の意味やニュアンスも違ってきている。作品の生み出し方から見せ方、生き方やセルフプロデュースの方法論まで、ウォーホルから教えられることは尽きることがありません」。
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