アーティストとともに歩んでいくアワードに
ここからは、第1回のファイナリストである乾真裕子(オンライン参加)、彌永ゆり子(オンライン参加)、近藤拓丸、向井ひかり、宮内由梨、山田康平の6名に顔をそろえていただき、応募から審査までを通じて得たものやBUGの印象について話を伺っていく。
──BUG Art Awardに応募した動機を教えてください。なぜBUGだったのでしょうか? また、「おせっかい」を標榜するBUGとの関係性はどのようなものでしたか。
乾真裕子(以下、乾) 私は大学の修了制作で応募しました。学外の人に作品を見てもらう機会がほしかったからです。BUGに出した決め手は、審査員の顔ぶれです。フェミニズム、クィア、LGBTQをテーマとする作品を、しっかり見ていただけそうという期待がありました。
審査が終わりしばらくしてから個展を開いたとき、BUGのスタッフの方が足を運んでくださり、新作について熱心に質問してくださいました。長期的に付きあっていただけるスタンスを大変うれしく感じました。
彌永ゆり子(以下、彌永) BUGという名称のアワードは、「デジタル」「ノイズ」といった要素がある私の作品との相性がいいのではないかと考えて、応募を決めました。新しいアワードなので様子がまったくわからず、ジャンルの規定もないという未知数なところに惹かれました。作品や展示のプランについて、フィードバックやレクチャーを手厚く受けられたのが自分にとっては役立ちました。
近藤拓丸(以下、近藤) 募集要項や審査員の顔ぶれを見て、自分のベストを出せそうだと思い応募しました。審査後に個人で展覧会をしたのですが、その告知にもご協力いただけたりしてありがたいかぎりでした。
向井ひかり(以下、向井) 学校を卒業して1年というタイミングで、以前「1_WALL」の展示を手伝った先輩からリニューアルしたらしいと聞き、応募しました。私の作品は状態を維持するのが難しいものだったので、管理上のやりとりをスタッフの方と濃密にさせていただいたのですが、いつも親身に相談にのってくださって感謝しています。そうしたきめ細かい対応がすでに、作家や作品への大きな支援だなと感じました。
宮内由梨(以下、宮内) BUGの応募規定には活動年数10年以内、ただし作家本人が決めるという趣旨の一文があります。またジャンルを問わないことも明記されています。それらの理念を体現する最初の例になれたらということを考えて、応募しました。審査員や運営の皆さんが受け止めてくださってうれしかったです。
山田康平(以下、山田) 創作のきっかけづくりに、また新しい出会いに期待して応募しました。経済的な支援を受けられるアワードはこれまでもあったと思いますが、教育的な側面をこれほど強く打ち出すものはほかにない気がします。制作に関して色々なことを教えてもらえてありがたかったです。
──アワードのなかで審査を受けたり、ファイナリストとして展示をしたりするのは、自身にとってどのような体験だったでしょうか。
乾 アーティストの菅亮平さんがステートメントやポートフォリオ作成の講座をしてくださったり、展示の前にはプロのインストーラーの方から設営のことをイチから教えていただけたのはよかったです。どんなプロジェクターをどこで買えばいいかまで懇切丁寧に示していただけて、納得のいく展示をつくることができました。
彌永 展示のプランを出すとすぐにフィードバックをもらえて、そこから練ってよりよいプランにしていく体験は、きっとほかのアワードではできないものです。ひとりで制作していたら煮詰まってしまうところを、みなさんの力を借りてどんどん更新していけたのが、新鮮で励みになりました。
近藤 長く続いているアワードだと「傾向と対策」があったりしますけど、BUGにはそういうものがなく、審査のときも将来性込みで作家と作品の可能性をじっくり見てくれた気がします。展示や審査を通してずっと独特の緊張感と楽しさがあってよかったです。
向井 応募者向けイベントに参加したとき、審査員の内海さんが仰っていました。理路整然と話すことを目指すというより、いま考えていることの何がわからなくて、どこまでわかっているのかを、自分の言葉で語るのが大事なのだと。それを聞いてすごく気持ちが楽になり、その言葉が以降の制作の後押しになりました。
宮内 BUGは準備期間から展示・審査まで半年くらいかかります。そのあいだずっと、これほど人から質問されることも、こんなに作品や創作について書くことも話すこともなかったので、おかげでとてつもない成長を遂げられて、感謝しています。
山田 ほかのファイナリストの人たちのプレゼンテーションを聞くのが、すごく勉強になりました。遠くに石を投げようとする姿勢が美しく感じられて、感動したんです。自分も現時点でのクオリティばかりを追わず、遠くを見ることをしなければと思い直しました。
──審査後もみなさんの作家活動は続きますし、BUG Art Award も回数を重ねていきます。これから応募する人へ向けてアドバイスはありますか。
乾 アワードは評価され審査される場ではありますが、作家がアワードにあわせたりする必要はないと思います。自分がやりたい表現をやりさえすれば、BUGはそれをしっかり見てくれるはずです。
彌永 BUGはただ応募して終わりではなく、いろんなサポートもありますから、そこを大いに活用すべしです。スタッフの方が「おせっかい」をやいてくれるというのもたしかです。展示プランをつくるだけでもいい経験になりますし、たとえファイナリストに残れなかったとしても、有意義な時間が過ごせます。
近藤 スタッフも審査員の方々も、本当によく応募者とその作品を見てくれるのが印象的です。応募作への評価だけでなく、長期的な伸びしろまで見てもらえるので、メリットばかりだと思います。
向井 時間をかけて審査が進むので、つどフィードバックを受けながら、いろんなことを考えるゆとりがあるのはいいところです。私は募集期間締め切りのギリギリで応募したのですが、自分のPCから応募フォームがうまく開かず、焦りました。余裕を持って送るのが大事かと思います。
宮内 審査されるというのは、作家の内側にあるものを、審査員と分かちあおうとする行為なのかなと思います。どう評価されるかは自分でコントロールできるものではないので、自分自身のなかにあるのがどんなものなのか、もう一度見つめ直して考えておいてから、応募・審査に進むのがいいのではないでしょうか。
山田 アワード側が好む作品の傾向などは気にせず、モチベーションの赴くままに応募すべきだと感じます。審査員の方々は、作品に込めた感情までしっかり聞こうとしてくれるので、包み隠さずすべてを伝えたほうがいいですし、心配なく自分をさらけ出せる雰囲気が、BUGにはあると思います。
なお、現在「第2回BUG Art Award ファイナリスト展」がアートセンターBUGで10月20日まで開催中。今回のファイナリストである新井毬子、岩瀬海、志村翔太、城間雄一、宮林妃奈子、矢野憩啓の6名による多様な作品が展示されているためぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。