東京・丸の内のアートセンター「BUG」で、「バグスクール:うごかしてみる!」が2024年1月14日まで開催されている。担当キュレーターは池田佳穂(インディペンデント・キュレーター)。参加作家は、内田涼、柿坪満実子、野口竜平、平手、藤瀬朱里、堀田ゆうか、前田耕平、光岡幸一、渡邊拓也といった1989〜99年生まれの9名だ。
アートセンターとして様々な可能性を開く試みを実践するBUG。本企画のポイントはアーティストとの交流を通じて、作品への理解を深めることができるという点にある。通常の「作品の鑑賞」のみならず、「ワークショップ」「レクチャーパフォーマンス」「座談会」などへの参加といった体験も用意されており、それらを踏まえて「作品の購入」をすることも可能となっている。
ゲストキュレーターとして本展を担当した池田は、開催意図について次のように語る。「作家らは自らの身体をチャンネルに表現を生み出しているため、受け手側もより感覚的に作品を鑑賞する機会がつくれたらと考えている。さらに会期中は出展作家全員が、参加者との対話もしくは身体や手を積極的に用いたプログラムを実施する。作品の鑑賞や解説文を読むだけではなく、実際に身体を動かしながら作品について考える機会を設けたいと思う」。
そのようなコンセプトを踏まえて制作されたアーティストらの作品をいくつか紹介したい。
アーティスト・光岡幸一は、通常の展示空間では見ることができない光景を展開する。壁面には平面の作品が並んでいるが、中央のロープをつたって光岡が壁をよじ登ることで作品が床に落ちていく、などの様々なアクションが会期中に行われる。アテレコされた声が流れる映像作品や、パフォーマンス中の光岡の動きや発声も重なることで、鑑賞空間が途端に自由な場へと変化していくだろう。この作品が会場入り口付近に設置されることで、本展を鑑賞するにあたりより効果的な体験へと誘うこともできるだろう。
渡邊拓也は、ふたつの映像作品とタイルの作品を展示している。《LIKE GRAVITY》(2022)は、逆さ言葉を繰り返し発することで言葉の意味を解体する映像作品。そして労働をテーマに制作された《工員K》(2017)では、タイル工場の工員K氏へのインタビューを渡邊が反芻することで、K氏を自身の体に憑依させている。タイルには自身の体に負荷をかけた状態で金液によって書かれた「労働」の文字が震えながらも光っており、過酷な労働状況が可視化されている。
藤瀬朱里は、紙と糸でドローイングを行う作家だが、特徴的なのは支持体である紙もドローイングする点にある。紙漉きの手法を応用して制作された《Where the kiss will be tomorrow》(2023)は、同時に形を成した紙と糸が時に前後のレイヤーをつくり出し、美しくも不安定といった、独特な存在感を生み出している。
人型オブジェ(人形)を制作する平手は、作家と人形とのやり取りから、鑑賞者によって様々な関係性を想起させるパフォーマンスを行っている。会場ではその様子が写真で紹介されているほか、ストーリーのワンシーンが平手によるドローイングやマンガの形式で描かれている。中央の人形《友情再生機器・人型R-1113》は触ることも可能だ。細かなギミックまでつくり込まれているため、優しく動かしてみてほしい。
前田耕平は「とある川」に根付く民話や物語にフォーカスし、表現する作家だ。会場モニターでは、自身が見聞きした川のストーリーが身体表現を通じて展開されている。また、スクリーンに投影された《Good River / Sungai Bagus》(2023)は、川の映像が徐々に額装された絵へと変化してゆく。実際には見ることができない、点描で表された川の気配に思いを巡らせてみてほしい。
また、本企画の特徴のひとつとして挙げられるのは「ラーニングスペース」だろう。ここではワークショップが行われるほか、展示作家らによる選書も設置。併設のBUG Cafeで注文したドリンクなどを飲みながら、それらを楽しむことも可能だ。本を通じて、作家らの思考や価値観を垣間見ることができるのではないだろうか。ワークショッププログラムは公式サイトで公開されているため、参加を希望する場合は、そちらから予約を行ってほしい。
作品は、会場で配布されるシートに記入し、スタッフへ声をかけることで購入できる。若手アーティストの報酬としてキャリア支援にもつながるほか、販売金の一部はセーブ・ザ・チルドレンへ寄付されるという。お気に入りの作家や作品と出会うことができたならば、ぜひこのステップも体験してみてはいかがだろうか。