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マルタン・マルジェラ「物が完全に死んでしまうことはない」。前橋国際芸術祭2026に際して語る、変容と再生【2/3ページ】

見過ごされた物、不在の身体 

──あなたは「私はつねに観察者であり、日常的な物や状況から強いインスピレーションを受けている」(「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」展プレスリリースより、以下すべて同じ)と語っています。何かを観察しているとき、それが作品になりうると感じるのはどのような瞬間なのでしょうか。ある物や状況が、あなたにとって「見るに値するもの」へと変わる契機について教えてください。

マルジェラ それまで見過ごされていた物が私に語りかけ、私の目や感覚を目覚めさせる。その瞬間に、私はその物を変容させるためのインスピレーションを得ます。

《INTERIOR Ⅰ》(2021)ベルベット・ラミネート加工を施したキャンバスにオイルパステル、木箱、ポリウレタンフォーム 185 x 250 x 30 cm Courtesy of the artist

──あなたは「ファッションの時代と同じ興味や強迫観念をいまも持ち続けているが、人間の身体はもはや唯一の表現媒体ではない」とも述べています。現在のあなたの作品において、身体はどのような存在なのでしょうか。直接表象される身体だけではなく、不在の身体や、身体が残した痕跡にも強い関心があるように感じます。

マルジェラ そうですね。人間の身体は、これまでもずっと尽きることのないインスピレーションの源であり続けています。その存在はさまざまなかたちで感じ取ることができますが、私にとって、必ずしも身体そのものを正確かつ完全に描写する必要はありません。

 例えば、私が室内や階段のイメージをつくるとき、そこに人の姿が描かれることはありません。それでも、つい先ほどまで誰かがそこにいた、あるいはもうすぐ誰かがやって来る──そんな瞬間を想像することはできるでしょう。

──そして、「不完全さやパティナ(*1)、未完成の美」への深い愛情について語っています。一般的に作品制作では「完成」がひとつの到達点と考えられますが、あなたにとって作品が完成したと判断するのはどのような瞬間なのでしょうか。あるいは、作品は完全には「完成」しないものだと考えていますか。

マルジェラ 私は不完全さとパティナを心から愛しています。作品が本当に完成したのはいつなのか、それを判断するのはとても難しいことです。作品によっては、いつまでも手を加え続けることができてしまいますから。

 しかし同時に、どこで手を止めるかを見極めることも重要です。たったひとつ手を加えただけで作品全体を台無しにし、それまで作品が持っていた純粋さを失わせてしまうこともあるからです。

*1──素材の表面に長い年月をかけて現れる自然な経年変化や風合いのこと。 

《GREY STEPS Ⅰ&ⅢⅠ》(2023)木枠に張ったキャンバス上のカーペット 191.5 x 111.5 cm Courtesy of the artist

編集部