モダニズム建築を守る仕組み、どうつくる?
──例えば東京では旧原宿駅舎(1924竣工、2020解体)や東京海上日動ビル本館(前川國男設計、1974竣工、2022解体)、旧原美術館(渡辺仁設計、1938竣工、2021解体)などのモダニズム建築が失われました。いっぽうで残された建物もあります。
松隈 三重県伊賀市にある旧上野市庁舎(1964竣工)は坂倉準三の設計です。 有志たちの粘り強い活動により保存され、現在はホテル・図書館として活用されています。また、南青山のポーラ青山ビルディング内には、フランク・ロイド・ライトの弟子である建築家・土浦亀城(つちうら・かめき)の自邸(1935竣工)が移築保存されています。


──こうしたモダニズム建築を守る取り組みとして、例えばヨーロッパなどではどのようなことが行われているのでしょうか。
松隈 フィンランドには『The Finnish Architectural Policy(フィンランド建築政策)』という国がまとめた冊子があります(1998) 。序文は当時の総理大臣パーヴォ・リッポネンが書いており、「What is architecture?(建築とは何か)」という哲学的な問いからスタートしています。そして「Good environment is a basic right of every citizen(良い環境はすべての市民にとって基本的な権利である)」と謳っている。またフィンランドでは初等教育できちんと建築のことを教えているのです。例えばフィンランドを代表する建築家、アルヴァ・アアルトの生涯を描いたマンガがすべての図書館に入っている。それくらい建築文化を国民の財産としてとらえている。残念ながら日本では大学で建築を専攻しないかぎり、日常に使っている建築物に関心を持つチャンスはなかなかありません。あと50年もすれば20世紀の建築文化がたどれなくなってしまいます。

近年、ユネスコやイコモス(国際記念物遺跡会議、世界中の歴史的建造物や遺跡の保存・修復を目的とする専門家のNGO)も20世紀建築の保存に動き出しており、2011年には「20世紀遺産の保存のための取り組み方法」(マドリッド文書2011)というものを策定しています。これは「20世紀の遺産を保存する責務は、それ以前の時代の遺産を保存する私たちの義務とまったく同等に重要である」という内容です。その象徴が2016年のル・コルビュジエの世界遺産登録で、日本の国立西洋美術館(1959竣工)も世界遺産になりましたよね。
──日本でもそういったモダニズム建築を守る制度をつくる必要がありそうですね。
松隈 日本の文化庁も柔軟になってきており、髙島屋日本橋店(高橋貞太郎設計、1933竣工)のように、営業を続けながら百貨店建築として最初に重要文化財に指定された例も出てきています。先のマドリッド文書にも「リビング・ヘリテージ(生きる遺産)」という言葉がありますが、20世紀の「日常普段使いの建築」を大切にする視点を持たなければいけません。建築家も職人も、まさか自分が生きているあいだに壊されると思って建築を一生懸命つくりませんよ。上野にある東京文化会館(1961竣工)などは、設計した前川國男が「あと100年は使ってほしい」というメッセージを残しています。日本のモダニズム建築が多く生まれた1950年代は、お金はないけれど優秀な職人たちがいた。建築は簡素だし、不具合もたくさんあると思います。しかし、建築を目の前にすれば、当時の人々の志の高さはいまでも感じられるはずです。そういうものを大事にするみんなの目がないと、私たちの身近な環境をよくできない。そこがいま、一番問われているのだと思います。
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