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国立西洋美術館がリニューアルオープン。コルビュジエが構想した前庭や名品のそろう常設展がふたたび

施設整備のために休館していた東京・上野の国立西洋美術館がリニューアル。ル・コルビュジエが構想した開館当時の姿にできる限り近づけられた前庭や、装いを新たにした常設展など、その見どころをレポートする。

国立西洋美術館

 2020年10月より施設整備のために休館していた東京・上野の国立西洋美術館が、4月9日にリニューアルオープン。このリニューアルにあわせて、ル・コルビュジエが設計した同館の前庭も、開館当時の姿にできる限り近づける工事が行われた。

 リニューアルに合わせて構成を新たにした常設展や、小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」、新収蔵版画コレクション展も開幕。リニューアルの概要と展覧会のハイライトをレポートしたい。

国立西洋美術館

 世界文化遺産に登録されている国立西洋美術館の建築だが、1959年の開館以来様々な改変が行われてきた。今回の工事では、空調や防水設備のリニューアルとともに、コルビュジエによる当初の前庭の設計意図が正しく伝わるよう、可能な限り開館時の姿に近づけた。

国立西洋美術館の前庭風景より、ロダン《考える人》

 同館の開館時には、正門は上野公園の噴水広場に面した西側にあり、外部との連続性をもたせるために透過性のある柵で覆われていたという。また、前庭の床には来館者の動線となるような線が引かれており、自然と人が本館のピロティへと視界の変化とともに入っていけるように意図されていた。

国立西洋美術館の前庭風景
前庭より、《カレーの市民》と《地獄の門》
前庭より、《地獄の門》

 こうしたコルビュジエの建築の意図を汲み取るため、本館と外の道路とのあいだを隔てるように配されていた植栽を最小限とし、開放的な柵を設置。また、ロダンの彫刻《考える人》と《カレーの市民》の位置を、できる限り当初の状態に近づけるかたちで配置し直した。さらに、コルビュジエが考案した尺度「モデュロール」による、来館者の誘導機能をもった床の目地も細部にわたり復元が行われた。

国立西洋美術館の前庭の床の目地

 リニューアル後はこれまで有料エリアだった本館の吹き抜け空間「19世紀ホール」も無料公開となった。2階の展示室は、このホールを囲むように配置されており、スロープを昇ることで螺旋状の動線が生まれている。コルビュジエが設計時に立てたコンセプト「無限成長美術館」のアイデアが結実しているホールであり、リニューアルした前庭とともにその思想を感じたい。

国立西洋美術館の「19世紀ホール」
「19世紀ホール」天井部分

 次に、リニューアルとともに開幕する「常設展」を紹介したい。国立西洋美術館は、実業家・松方幸次郎(1866〜1950)による「松方コレクション」を収蔵展示するために生まれた。オープン後も継続して収集活動を続けてきたが、いまもその収蔵作品の根幹となっているのはこの「松方コレクション」だ。「常設展」ではコレクションの名品の数々を紹介しつつ、新収蔵作品やピックアップ作品「Collection in FOCUS」といったトピックを立てて、新たな視点を与えている。

展示風景より

 本展では近世の西洋美術の歴史をたどると必ず出会うことになる画家の作品が一同に会する。農民画家として知られるピーテル・ブリューゲル(父)の子である、ピーテル・ブリューゲル(子)やヤン・ブリューゲル(父)、17世紀のフランドル美術を代表する画家、ペーテル・パウル・ルーベンス。そして同じく17世紀のフィレンツェの代表的画家、カルロ・ドルチなどを一堂に見ることが可能だ。

展示風景より、ピーテル・ブリューゲル(子)《鳥罠のある冬景色》(制作年不詳)
展示風景より、ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子供》(1612-13頃)
展示風景より、カルロ・ドルチ《悲しみの聖母》(1655頃)

 また、近代において生まれた主要な絵画の潮流をつくった画家の作品も見逃せない。19世紀のフランスでロマン主義を牽引したウジェーヌ・ドラクロワや、写実主義を率いたギュスターヴ・クールベ、イギリスで活躍したラファエル前派の一員として高名なジョン・エヴァレット・ミレイなどはその代表といえるだろう。

展示風景より、ウジェーヌ・ドラクロワ《墓にはこばれるキリスト》(1859)
展示風景より、左からギュスターヴ・クールベ《罠にかかった狐》(1860)、《眠れる裸婦》(1858)
展示風景より、左からレオン・ボナ《ド・ラ・パヌーズ子爵夫人の肖像》(1879)、ジョン・エヴァレット・ミレイ《あひるの子》(1889)、《狼の巣穴》(1863)

 さらに、印象派からポスト印象派にかけての作品も本館コレクションの柱のひとつだ。エドゥアール・マネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、クロード・モネ、ポール・セザンヌ、フィンセント・ファン・ゴッホといった誰もが知る画家の作品が並ぶ。

展示風景より、左からエドゥアール・マネ《花の中の子供(ジャック・オシュデ)》(1876)、ヴィクトリア・デュブール《花》(制作年不詳)
展示風景より、左からクロード・モネ《チャーリング・クロス橋、ロンドン》(1902頃)、《セーヌ河の朝》(1898)、アルフレッド・シスレー《ルーヴシエンヌの風景》(1873)
展示風景より、左からクロード・モネ《睡蓮》(1916)、《陽を浴びるポプラ並木》(1891)

 なかでも、モネの《睡蓮、柳の反映》(1916)は、「松方コレクション」の歴史を雄弁に語る作品といっていいだろう。痛々しく表面が剥離した本作は、かつて松方がモネ本人から購入したものの、第二次世界大戦中の疎開時に大きく損傷。その後は敵国人財産としてほかの松方コレクションと同様にフランス政府に接収された。本作は破損が大きかったために、その後の日仏友好のための返還リストに含まれず、長く忘れ去られていたが、2016年にルーヴル美術館で眠っていたものが見つかる。松方家に返還され、2017年に館に寄贈された。時代の流れに翻弄された本作は、美術が伝えていくものの大きさをこの時代に改めて感じさせるものといえるだろう。

展示風景より、モネ《睡蓮、柳の反映》(1916)

 同時開催の「新収蔵版画コレクション展」は、4500点以上を誇る同館の版画コレクションをさらに拡充すべく、新たに収蔵された版画を紹介している。ヘンドリク・ホルツィウス、アンリ=ファンタン・ラトゥールやピエール・ボナールといった、各時代の版画を代表する作品群を楽しみたい。

展示風景より、左からヘンドリク・ホルツィウス《永遠の洞穴にいるデモゴルゴン》(1588-90頃)、ジャック・ベランジェ《壷とポーチを持つ女庭師》(制作年不詳)
展示風景より、ピエール・ボナール『パリの生活情景より』のためのリトグラフ(1899)

 また、前庭のリニューアルに合わせて、同館を設計したコルビュジエの絵画作品を紹介する小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」も開幕した。

展示風景より、ル・コルビュジエ《奇妙な鳥と牡牛》(1957)

 展示では、世界有数のコルビュジエのコレクションを所蔵する大成建設の寄託作品を中心に展示。芸術と科学の融合を目指したといわれる作品群が展示され、建築とはまた異なるかたちで表現されたコルビュジエの思想にふれることができる。

展示風景より、左からル・コルビュジエ《静物》(1953)、《牡牛XVⅢ》(1959)

 なお、6月4日からはドイツ・フォルクヴァング美術館の協力のもと、「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」を開催する予定。印象派とポスト印象派を軸にドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える絵画や素描、版画、写真を展示し、近代における自然に対する感性と芸術表現の展開を展観する。

 コルビュジエによる建築空間で、西洋絵画の歴史を名品とともにたどることができる、世界的にも希少な美術館。上野公園にふたたび、多くの人に愛される美術館が戻ってきた。

展示風景より
展示風景より
国立西洋1階部分
国立西洋地階部分
国立西洋美術館の前庭風景

編集部

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