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宮本華子インタビュー。「相容れない他者」と向きあうために作品をつくり続ける【3/4ページ】

マイクロレジデンス「AIR motomoto」を始めたきっかけとは?

──受賞作の制作にあたって、ご家族や介護サービス以外の方とコミュニケーションを取ったりもしたのでしょうか?

宮本 はい、例えばこの作品をインストールしてくれているアーティストの井上修志さんは、私が熊本県荒尾市で運営している「AIR motomoto」というマイクロレジデンスに参加してくださった方で、東日本大震災の経験から社会の脆さや、社会と自然の構造に関心を持って制作をされています。

 昨年、作品制作について悩んでいたときに、井上さんが「ATAMI ART GRANT 2024」というアートイベントに参加されていたんです。それが、取り壊し予定の建物に対して作品制作を行うというもので、もしかすると「家」に関して考えが深まるかもしれないと思い、制作のお手伝いをさせていただきました。その制作期間中には、ほかのアーティストらとコミュニケーションをとる機会も多く、みんなで同じ家で寝泊まりをしたりもしました。そういった他者とのコミュニケーションの機会が、今回の受賞作にも反映されていると思います。

井上修志個展「一周の螺旋は円にも見える」 2023 AIR motomoto 写真=長野聡史
井上修志「一周の螺旋は円にも見える」制作風景 2023 AIR motomoto

──他者とのコミュニケーションについて考える宮本さんが、レジデンスを運営するというのは、ものすごくしっくりくるような気がします。宮本さんの活動のもうひとつの側面として、「AIR motomoto」の活動や設立の経緯について教えてください。

 「AIR motomoto」は、「熊本(Kumamoto)」「宮本(Miyamoto)」のmoto、そして「駄目で元々」というネガティブなようで、じつはポジティブな言葉を掛け合わせて名付けられました。このレジデンスの運営を始めたきっかけには、阿蘇で実施されていた県のレジデンス事業でベルリン在住の女性アーティスト、Gaby Taplickさんと仲良くなったことと、彼女からの誘いもあって1ヶ月間ベルリンに遊びに行った経験が挙げられます。彼女のスタジオに招待され、ともに過ごしたその時間がすごく素晴らしいものだったので、その一年後から自分もベルリンに住み続け、結局合計7年間も滞在することとなりました。

 ドイツでは、日本よりもアーティスト・イン・レジデンスの考えが浸透しており、自分がここにいることが特別ではない、という感覚がすごくあって安心したことを覚えています。「これなら自分もやりたいかもしれない」と思い、彼女に相談したところ、「やるなら手伝ってあげるよ」と言ってもらいました。ですから、motomotoで一番最初に招聘したアーティストは彼女なんです。そこから、ただのコンクリート打ち放しだったスペースの土台づくりを手伝ってもらい、いまの状態に至っています。

 現在このスペースも6年目で、いままでに12組のアーティストが滞在してくださいました。私とメキシコ人の友人であるValeria Reyesの2人で運営をしているので、招聘アーティストと距離が近いのも特徴のひとつだと思います。

──どのようなアーティストを招聘されることが多いのでしょうか?

 基本的には、熊本に滞在経験のない方にお声がけすることが多いです。私がベルリンに行っているあいだや、自身が招聘アーティストとして別の地域に赴いた際に、おもしろいと思ったアーティストに声をかけるようにしています。先ほどお話しした井上さんもそのうちのひとりでしたね。アーティストが滞在しているときには、私も自身の制作をしながらそのお手伝いをすることもあるのですが、人の作品を手伝うことでその人の考え方を知ることができるのも私にとっては興味深く、価値があるポイントだと考えています。

DONIKE Marie and SPECKS Johannes 成果展「OSEIBO NASHI NETWORK」荒尾梨談笑会風景 2023 AIR motomoto 写真=長野聡史

編集部

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