空間と関係し、新たな文脈が生まれる
──ミュエクは空間や照明の設計といった、作品をどのように見せるのかに関わる様々な技術についてもこだわりがあるのでしょうか?
クラーク 空間設計や照明は、観客に対する彫刻の見え方を大きく左右するので非常に重要です。ですから、展示の設計で美術館を訪れる際は、展示室のサイズ、スケール、雰囲気、床材、天井の高さ、照明、窓の有無まですべてチェックします。照明も大切です。「展示の準備は、彫刻の荷解きに1日、配置決定に2日、そして照明に3日かかる」といつも言っているくらいです。
観客が彫刻と同じ光を分かち合っていることがとくに重要です。観客が作品とのつながりを感じるための鍵となるからです。さらに、作品を自然に感じつつも、彼が造形したすべてがしっかり見えるよう、非常に微細な調整が必要になります。従来とは違う演出がそのとき、その作品に合うこともあります。決まったルールはありません。最も大切なのは展示室で実際に展示された彫刻を見て判断することです。
《マス》(2016-2017)のような作品では、所与の環境下でインスタレーションの雰囲気を高めるために、光をややドラマチックに使ってもいいでしょう。あるいは《ダーク・プレイス》(2018)のように暗闇から浮かび上がる作品では、観客は暗い部屋の入口に立ったまま、距離を保って作品の存在感を感じることになります。
──ミュエクは近年の創作において、なにを目指しているのでしょうか?
クラーク 森美術館での展示に含まれる予定の《マス》(2016-2017)、《チキン/マン》(2019)、《ダーク・プレイス》(2018)はここ10年の作品ですが、それぞれが別個の新しい可能性を探求しているように思えます。2023年にはパリのカルティエ現代美術財団で3匹の巨大な犬の彫刻《構えて》が発表されました。同作では何かが起きようとする緊張の一瞬が表現されており、それは《チキン/マン》にも通じます。いっぽうで《マス》のような削ぎ落とされた細部もあり、《ダーク・プレイス》のように、全体の存在感によって観客を惹きつける要素もあります。

「ロン・ミュエク」(韓国国立現代美術館ソウル館、2025)展示風景より 撮影=ナム・キヨン 画像提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館
また、昨年12月にシドニーのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で公開された最新作《騒乱》は8匹の犬の群像で、躍動感を捉えつつ、《マス》のように部屋全体を風景として引き合いに出そうとする意図も感じられます。なんにせよ、彼の創作が今後どうなっていくのかは、私もとても楽しみなところです。
──最後の質問です。森美術館での『ロン・ミュエク』展は、日本で久しぶりに開催される大規模個展となります。どんなところに注目してほしいですか?
クラーク おっしゃる通り、約20年前の金沢での展覧会以来、日本で初めての大きな個展となります。それ以降に制作された作品が一堂に会するだけでなく、これまでのどの個展にも含まれていなかった《エンジェル》のような初期の作品も含まれています。彼の作品に馴染みのない方には彼のキャリアと発展の全貌を、そしてすでにご存知の方には何か新しい発見を提供できる展覧会になることを切に願っています。
また、本展にはゴーティエ・ドゥブロンドによる2本の映像と写真も展示されています。彼は25年以上にわたりロンのスタジオでの制作過程を記録しており、スタジオの雰囲気やロンがどのように仕事をしているか、その舞台裏を垣間見ることができるはずです。ぜひ展示を楽しんでください。



















