• HOME
  • MAGAZINE
  • INSIGHT
  • ロン・ミュエクとは何者なのか。ミュエクと展覧会を制作してきた…

ロン・ミュエクとは何者なのか。ミュエクと展覧会を制作してきたチャーリー・クラークの言葉で探る【2/3ページ】

観客の体験と呼応する彫刻

──ミュエクは人体彫刻をつくり続けてきましたが、国際的評価を得ることになったきっかけはいつの展覧会でしょうか。

クラーク ロンの作品が広く一般に知られるようになったきっかけは、1997年にロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催された「センセーション」展でした。多様な作品群のなかでも、ロンの《死んだ父》(1996-97)は際立って記憶に残るものでした。さらに2001年には、ヴェネチア・ビエンナーレで《ボーイ》(1999)が展示されました。もともとはロンドンのミレニアム・ドームのためにつくられた、5メートル四方のうずくまる人物像です。ロンドンでは奥行きが狭まって見える部屋の隅にちぢこまるように配置されていましたが、ヴェネチアでも建築空間に対応し、空間いっぱいに展示されました。

ロン・ミュエク《マス》(2016-2017) 「ロン・ミュエク」(韓国国立現代美術館ソウル館、2025)展示風景より 撮影=ナム・キヨン 画像提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

──《ボーイ》以外にも、ミュエク作品は所与の環境に合わせてつくられたものが多いと感じます。その背景や哲学について何かご存知ですか?

クラーク たしかにミュエクの彫刻のなかには、特定の場所で展示することを念頭に構想されたものもあり、環境が彫刻のキャラクターを方向づけることもあります。しかしそこで発生するのは、多くの場合、最初に与えられた設置場所との関係性でしかありません。むしろ彫刻を最初とは別の場所で、または他作品との文脈に置きなおして再展示してみると、それまで明らかでなかった側面が見えてきます。今回の展覧会でも、まさにこの作業に取り組んでいます。本展の目玉である《マス》は、100個の頭蓋骨で構成された作品ですが、これまであらゆる展示空間で、所定の空間の建築的特性、光、そしてより広範な文脈に応じながら、新たなハーモニーを生み出してきました。作品は観客の存在によってはじめて完成するため、どのように感じられるべきかを事前に決めておく必要はありません。ただ受け入れる姿勢を整え、文脈への応答を待ち、作品自体に語らせればよいのです。

──彼の独創的なアプローチに対して、当時の美術批評はどのような評価をしたのでしょうか?

クラーク 作品が広く知られるようになってから、彼の作品を待ち望む観客の存在をつねに感じます。特筆すべきは、彼の作品が普段アートを見に行かない人々を惹き付けるということです。美術批評家からも、子供からも、自分は美術館に行く人間ではないと思っている人からも、等しくポジティブな反応を引き出すのはとても喜ばしいことです。おそらく、ロンの彫刻へのアプローチが、美術批評や業界内での位置づけ、美術史といった考えに主導されていないからでしょう。観客は、説教をされているようには感じませんし、何か隠された意味を探り当てなければならないといったプレッシャーも感じないのです。

ロン・ミュエク《ゴースト》(1998/2014) ミクストメディア 202 × 65 × 99 cm 所蔵=ヤゲオ財団コレクション(台湾) 「ロン・ミュエク」(韓国国立現代美術館ソウル館、2025)展示風景より 撮影=ナム・キヨン 画像提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

──彼の探求に通じる哲学を持つアーティストとして、例えばミニマリズムのアーティスト、ロバート・モリスなども、環境と来場者に対して注意を払っていました。しかしミュエク自身は、先立つアーティストを気にしていないようです。ミュエクの創作活動に影響を与えた人物は存在するのでしょうか。

クラーク とくにいないと思います。彼は美術大学などの専門機関でアートを学んだことも、他のアーティストと密接に仕事をしたこともありません。そのかわり、彼はものをつくる環境で育ってきました。

 彼はものをつくるとき、それがどう受け止められるかをあまり気にしていないと思います。自分自身に忠実に、正しいと思えるものをどうつくるか。それだけを考えています。それはクラフトマンシップに対する非常に誠実な姿勢であり、作品が誠実な姿勢でつくられたことは観客にも伝わるでしょう。

 ロンの彫刻は一つひとつが独立した存在で、一つの作品との出会いはそれだけで完全なもののように感じられます。これまで個展や彫刻単体のインスタレーションに加え、様々な時代につくられたオブジェとの文脈においてロンの彫刻を展示するなかで、作品の新しい側面が引き出されてきました。設計に反して、作品同士は対話しているようにも見えます。個々の作品に対する私たちの認識は、ある程度は、展覧会の会場を進むうちに生じる出会いの積み重ねによって形成されていくのです。

──次は素材に関する質問です。1990年代と比べて、現在は制作に使われる素材や着色剤は大きく変化しました。このような素材の変化は、彼の創作活動に影響を与えたと思いますか?

クラーク 新しい材料や技術が制作に新しい可能性をもたらしたのは確かですが、それがロンの作品の意図に直接影響を与えているかどうかはわかりません。手作業で彫り、粘土で造形し、型取りをしたり鋳造したりするロンの手法は、非常に伝統的なものです。1990年代末に作られた《ボーイ》のような野心的な巨大彫刻も、ロンはポリスチレンのブロックから文字通り手作業で削り出し、その上に粘土の層を重ねて表面の細部を造形しました。現在では、そうした手間の一部を省くことができる技術があり、ロンも最近の作品ではそれらを活用しています。ただ、こうした物理的な構造を助ける材料や技術はありますが、芸術的なビジョンや、人間的なつながりを伝えるフォルムを創り出すための「手作業によるアプローチ」に代わるものはありません。

ロン・ミュエク《ダーク・プレイス》(2018) ミクストメディア 140 × 90 × 75 cm 所蔵=ZAMU(アムステルダム) 「ロン・ミュエク」(韓国国立現代美術館ソウル館、2025)展示風景より 撮影=ナム・キヨン 画像提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

編集部