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ターナー・コンテンポラリーはいかにしてマーゲートを「アートの町」に変貌させたか?【3/4ページ】

文化とともに自然遺産も守る

 風光明媚な立地にある施設として、文化活動だけでなく自然遺産の保全にも力を入れていることも、同美術館の大きな特徴だ。LED照明の導入に加え、館内の温度や湿度を最適化することで省エネルギー化を図っており、開館以来、二酸化炭素排出量の大幅な削減も実現してきた。

ターナー・コンテンポラリーの内観。ブリジット・ライリー展「Learning to See」が5月4日まで行われている

 また、ロンドンで設立された、アート業界の二酸化炭素排出量の削減と環境負荷の軽減を目指す非営利団体「ギャラリー気候連合(Gallery Climate Coalition)」や、芸術・文化分野から気候変動へのアクションを促す非営利団体「ジュリーズ・バイシクル(Julie's Bicycle)」とも協力関係にある。さらに、政府や環境保全団体などからの資金提供を受けて、2022年からは「アートと環境」プログラムを通して、自然とアートの変化し続ける関係を展覧会などを通して発信している。

 日常的なレベルでも、廃棄物削減に向けた地道な取り組みを重ねている。展示資料の再利用や地域社会との共有を可能なかぎり進めるほか、発注書の印刷廃止などにも取り組む。ミュージアムショップでも、不要なレシートの発行抑制や使い捨てプラスチックの削減に努めている。

記念の展覧会と街に点在する作品群

 現在、開館15周年を記念して、11月1日までデイヴィッド・ホックニーの《サンリー・ウィンドウ2026》(2026)が展示されている。縦7メートル、横10メートルに及ぶ大作で、ホックニーが2020年にフランスのノルマンディー地方で制作した絵画をもとに構成された作品だ。マーゲートの海を望む大きな窓を彩り、夜は23時までライトアップされるため、館外からも鑑賞することができる。同館でホックニーの作品が展示されるのは今回が初めてだ。エントランスの先に据えられたその作品は、圧倒的な存在感を放ちながらも、その壮大な自然の情景によって鑑賞者を温かく包み込んでいる。

デイヴィッド・ホックニー《サンリー・ウィンドウ2026》(2026)の展示風景

 また今年は、J.M.W.ターナーの生誕250周年にもあたり、ターナーの油彩スケッチ《風下の海岸で砕ける波、マーゲート(「烽火と蒼光」のための習作)》(1840頃)もあわせて展示されている。マーゲートで制作された可能性が高いとされるこの作品には、広々とした構図のなかに荒々しい海面が描かれており、《浅瀬の蒸気船に警告するのろしと青い光》(1840頃、アメリカ・マサチューセッツ州のクラーク美術館蔵)のための習作とされている。

J.M.W.ターナー《マーゲートの風下海岸に砕ける波》(1840頃)の展示風景

 美術館の外に出ると、すぐ隣に建つ観光案内所を兼ねたドロワット・ハウスのエントランス上に、トレイシー・エミンのネオン作品《アイ・ネヴァー・ストップド・ラヴィング・ユー》(2010)が掲げられている。故郷への想いを託したこの作品は、マーゲートの地区議会とターナー・コンテンポラリーの依頼によって制作され、同館開館前年の2010年から飾られている。

トレイシー・エミン《アイ・ネヴァー・ストップド・ラヴィング・ユー》(2010)の展示風景

 さらに、すぐそばの海岸フルサム・ロックには、アントニー・ゴームリーの彫刻《アナザー・タイムXXI》(2013)が設置されている。干潮の約3時間前になると完全な姿を現すが、それ以外の時間帯には海のなかに立ち尽くしている。人間と自然との関係をあらためて考えさせる作品だ。

アントニー・ゴームリー《アナザー・タイムXXI》(2013)の展示風景

 クリスティーズの記事(*1)では、昨年アーティストのスティーブ・マックイーンがキュレーションを担当し、イギリスの抗議活動の記録をたどった展覧会「レジスタンス」展をその例として挙げながら、ターナー・コンテンポラリーの成功の理由のひとつとして「来場者たちを決して過小評価しないこと」としている。また、4月19日にはマイケル・ランディが指導するドローイングのワークショップ「アーティスト・マスタークラス」も予定されている(東京の国立新美術館で開催中の「YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展に出品している)。

編集部

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