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未完の革命の継続としての連帯──ヨーロッパを周縁から問い直す「キーウ・ビエンナーレ2025」【6/7ページ】

 ワルシャワでのメイン展を拡張しつつ、独立した展示としても機能する複数会場のひとつを担っているのが、アントワープ現代美術館(M HKA)である。M HKAでは、展覧会開幕の約一週間前の10月3日に、進行中だった新館建設プロジェクトの中止が発表され、さらに10月6日にはフランダース政府との協議を経ることなく、現代美術館としての地位を失い、2028年までに国際的アートセンターへと再編されることが通告された。こうした状況もあって、美術館内外には、キーウ・ビエンナーレ以上に暴力的な権力に対する、強い連帯と結束の空気が漂っている。

M HKA(アントワープ現代美術館)

 アントワープでの展覧会のテーマは「Homelands and Hinterlands(故郷と後背地)」。帝国の中枢によって、資源として支配されてきた旧植民地や周縁地域を指す「ヒンターランド」の経済的・地理的・文化的・政治的な重要性を再認識しようとする試みがなされている。通常は「In Situ(イン・シチュ)」プログラムとして、新進気鋭の国際的なアーティストを招き、実験的なアプローチのために活用されている空間を今回のビエンナーレに充てたM HKAでは、Basel Abbas & Ruanne Abou-Rahme(バセル・アッバス&ルアンヌ・アブ=ラーメ)の《Oh Shining Star Testify(輝ける星よ、証言せよ)》(2016-19)がなかでも大きく展開された。イスラエル軍が設置した「分離フェンス」を越え、パレスチナ料理の食材を採りに行こうとした少年が射殺されたことを起点に、イスラエル軍による監視映像を人権団体が入手・公開した映像をもとに構成されたインスタレーションでは、暴力的に抹消される身体・土地・建築物の日常的な記録映像が断片的に繋ぎ合わせられ、それらが儀式的な歌や踊りを通して立ち現れてくる。テクノロジーの時代において、デジタル化された断片が、存在そのものをシステムによって不可視化する構造にいかに抗いうるか問うているのだ。

 ほかにもメディア批評的な作品として、Giorgi Gago Gagoshidze(ジョルジ・ガゴ・ガゴシゼ)の映像作品《It’s Just a Single Swing of a Shovel(スコップのたった一振り)》(2015)がある。ジョージア在住のアルメニア人高齢女性が、スクラップ金属を集める途中、誤って光ファイバーケーブルを切断し、3か国全体のインターネット通信を遮断してしまった2011年の出来事が、無意識のハッキングとして解釈されている。たった一振りのスコップに負けてしまうインフラの脆弱さと不安定さを暴き出すとともに、テクノロジーの時代における個人的な行為の力について考えさせられる。

Basel Abbas & Ruanne Abou-Rahme(バセル・アッバス&ルアンヌ・アブ=ラーメ)の《Oh Shining Star Testify(輝ける星よ、証言せよ)》(2016-19)

編集部