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未完の革命の継続としての連帯──ヨーロッパを周縁から問い直す「キーウ・ビエンナーレ2025」【3/7ページ】

 地図だけでなく、記録やモニュメンタルなものなど文化遺産を扱った作品も目につく。展示室に入ってすぐの空間で展開された、Nikita Kadan(ニキータ・カダン)の《Silence in the Classroom(教室の沈黙)》(2025)では、教室に似せた空間に、ソビエト体制下から現代に至るまで続く、抑圧された芸術家たちの作品やカタログなどの資料が断片的に配置されている。彫刻的なインスタレーションに加え、壁にはインスタレーションの一部として「プラチナ・コレクション」から、20世紀前半のウクライナのアヴァンギャルド芸術家(*4)の絵画も展示された。このコレクションは、キーウのコレクターで美術史家・Ihor Dychenko(イーホル・ディチェンコ)が収集したもので、これらはウクライナの公立美術館では稀にしか見られない。なぜならソビエト体制下のウクライナでは、アヴァンギャルドは「社会主義リアリズムに反する逸脱的芸術」とされ、国家機関による収集や保存は行われず、多くの作品が散逸し、また破壊された。さらに、2022年2月にロシアの全面侵攻が始まって以来、このコレクションは最優先で避難対象とされ、ワルシャワ現代美術館が保管することになった。現在もウクライナでは、文化機関や美術館の建物が破壊・略奪され得るため、コレクションの多くは地下に隠されるか、避難を余儀なくされている。そうした作品の「沈黙」を可視化し、失われつつある歴史の痕跡・記録を、記憶する場としての「教室」で再び取り戻そうとしている。

 ほかにも、Artur Żmijewski(アルトゥル・ジミェフスキ)はワルシャワのソビエト軍人墓地で、ポーランドの「解放者」としての赤軍を称える記念碑を撮影し、文化遺産であると同時に対立の火種でもあるモニュメントの二面性を明らかにする。加えて、Ali Cherri(アリ・チェリ)のスライド作品《A Monument to Subtle Rot(微細な腐敗への記念碑)》(2024)では、パレスチナの作家カリム・カッタンのテキストと、帝国主義・軍事侵略・空爆による破壊を経験した都市にある、取り壊された記念碑の写真を組み合わせることで、植民地主義者の語りに彩られた構築物としての中東の歴史を、神話的想像力と結びつけながら語り直す。

Nikita Kadan(ニキータ・カダン)の《Silence in the Classroom(教室の沈黙)》(2025)

*4──このコレクションには、ウクライナのアヴァンギャルド芸術を代表する、Mykhailo Boichuk(ミハイロ・ボイチューク)、Oleksandr Bohomazov(オレクサンドル・ボフマゾフ)、Kazymyr Malevych(カジミール・マレーヴィチ)、Viktor Palmov(ヴィクトル・パルモフ)らの作品が含まれ、中には女性作家Mariia Syniakova(マリア・シニャコーワ)も含まれる。

編集部