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パンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻──ヴェネチア・ビエンナーレ第59回国際美術展は何を伝えるのか?

パンデミックの影響で開幕が1年延期されていたヴェネチア・ビエンナーレ第59回国際美術展が、4月23日に開幕した。プレビューに駆けつけた現代アート関係者が再会を喜びながら人気の会場に列をつくる横で、ロシア館は閉鎖され、ウクライナ支援のための展示が急遽開かれている。史上最大数の女性アーティストが参加し「女性のビエンナーレ」とも評される企画展と併せて、見どころをピックアップする。

文・撮影(クレジット表記のない写真)=飯田真実

企画展「The Milk of Dreams」より、デルシー・モレロス《Earthly Paradise》(2022)

開幕前夜

 2月24日未明、ロシアがウクライナ全土へ軍事侵攻を開始した。翌日、ヴェネチア・ビエンナーレはあらゆる戦争と暴力を否定する声明を発表した。また、ビエンナーレが異なる国、言語、民族、宗教などの間で対話の場であり続け平和を希求するために、春に開幕を控えた第59回国際美術展を予定通り開催する意向を示した。

 いっぽう、4日後の28日、世界各国がそれぞれ選抜したアーティストと参加し受賞を競う「ナショナル・パビリオン」部門で、ロシア館のキュレーターとアーティストが辞職し出展をとりやめた。これで今年の同部門参加国数は79となった(初参加国のカメルーン、ナミビア、ネパール、オマーン、ウガンダを含む)。3月2日には、ウクライナの参加を全面的に支援すると同時に、過去に出展したロシア人アーティストらによる戦争への抗議に寄り添い、ロシア政府とつながる機関や個人のイベント出席を認めないこととした。

ジャルディーニ会場の中心にひっそりと特別設置された「ウクライナ広場」。ウクライナ緊急美術基金(UEAF)により建てられた土嚢のモニュメントと、それを囲む焦げた木の柱には、戦時中のアートアーカイブとして複数のウクライナ人アーティストによる作品がポスターのように掲示・更新される
(同上)

企画展「The Milk of Dreams(夢のミルク)

 この戦争が夢か映画であったならと心から思いながら、コロナ前の活気を取り戻しつつある水上都市を3年ぶりに再訪する。1895年から続くビエンナーレが中断したのは2度の世界大戦の時だけとのことで、今日はまだ第3次世界大戦下にはないらしい。ロックダウン中に準備を進めた企画展「The Milk of Dreams(夢のミルク)」では、アーティスティックディレクターのチェチリア・アレマーニがとくに光を当てた近代の女性アーティストによるシュルレアリスム作品を起点に、213アーティスト(うち男性は21名だけ、ヴェネチア初参加は180名、物故作家90名以上を含む)がジャルディーニとアルセナーレ会場で展示されている。

 彼女らの作品とパンデミックに直接的な関係は見られないが、戦争という現実により展示の見方が変わった可能性がある。例えば企画の背景について、「こわばる国際社会と深まる環境災害、それらに適応しようとする先端技術に個人やの尊厳むしろ脅かされ、生存力が問われる昨今」、といった具合に(下線は、リリースの文章要約に著者が追加・調整した)。西洋で根強くはびこる「The Man of Reason(理性の男)」をどれだけの変革と包容の力をもってアートが見つめ返せるかも疑問だ。それでも開かれた国際美術展は変容の可能性を信じ、芸術や科学、神話を貫く人間の定義がどのように変化しているかと問う。

アルセナーレ会場は、写真中央のシモーネ・リー《Brick House》(2019)で始まる。無言の女性のモニュメントをパブリックスペースに建立するのはパフォーマンスでもある。リーはこの企画展のうち最も優れた出展アーティストに贈られる「金獅子」を受賞
ジャルディーニにあるアメリカ館でも代表アーティストとして個展「Sovereignty」を開催。新古典主義建築を、1931年にフランスで開催された植民地博覧会のパビリオンのレプリカで覆い、ピカソがその美的側面をフェティッシュにしたギニアの女性像を再解釈して設置した

「魔女のゆりかご」

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