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未完の革命の継続としての連帯──ヨーロッパを周縁から問い直す「キーウ・ビエンナーレ2025」【2/7ページ】

 ワルシャワでは、展覧会のテーマとして「Near East, Far West(近い東、遠い西)」が掲げられた。言うまでもなく地政学的なテーマであるが、ヨーロッパの植民地時代に生まれた「Far East(極東)」という言葉を転倒させ(*2)、帝国主義によって規定された、西欧中心のまなざしを問い直そうとしている。さらにキュレーターたち(*3)は、現在の地政学的現実に対し、中央東ヨーロッパ、旧ソ連東部、そして中東地域を包摂する領域を「Middle-East-Europe(中東=東欧)」と呼び、新たな地政学的概念を提案する。つまり、ヨーロッパの中心都市(メトロポリス)とEUの外縁部にある「周縁」との新たな植民地主義的関係を問い直し、「Greater Europe(拡張された大ヨーロッパ)」の運命が、その東の境界地帯で形づくられつつあることを強調している。その境界地帯では、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザでの軍事行動が現在形で続いている。そこでは、戦争、占領、民族浄化、ジェノサイドといった帝国主義・植民地主義の暴力、そして世界政治に広がるファシズム的傾向が、形を変えて今も続いている状況だ。メイン会場のワルシャワも、旧「西側」の周縁同士をつなぎ、「中東=東欧」圏が抱える政治的複雑性と歴史的絡み合いを再び開くための場として選ばれている。

Museum of Modern Art in Warsawでの会場サイン

 展覧会は、あらゆる「暴力の歴史と現在を可視化するマトリクス」として構成され、拡張されたヨーロッパの時空間を横断する複合的な文脈を鑑賞者に体験させようとする。大きな階段のあるアトリウムを挟んで両翼に延びる展示室には明確に決められた順番はなく、出入口のどちらからでも入れる構成となっている。

 個々の作品を見ていこう。テーマに対して象徴的なのは、Lana Čmajčanin(ラナ・チマイチャニン)の《551.35 – Geometry of Time(時間の幾何学)》(2014 / 2025印刷)。ボスニア・ヘルツェゴビナ地域における複数の地図を重ね合わせ、その国境線の変遷を可視化しようとした作品だ。旧ユーゴスラヴィア地域の地図は、数世紀にわたる戦争と和平のたびに何度も描き直され、歴史的な地図はナショナリズムや帝国的権益のイデオロギーを示し、支配と分断の道具となってきた。しかし後ろから照らされ、光の中で浮かび上がる地図の線は重なり合うことで、むしろ曖昧さを孕みながら、「境界とは何か」という根本的な問題を投げかける。

Lana Čmajčanin(ラナ・チマイチャニン)の《551.35 – Geometry of Time(時間の幾何学)》(2014 / 2025印刷)

*2──Where is the Middle East? The Near East? The Far East?, Dictionary.com, https://www.dictionary.com/e/east/? などを参照
*3──ワルシャワのキュレーターは、スウェーデン、ウクライナ、オランダ、ドイツ、ベルギー、ポーランド(順不同)を拠点として活動する、Nick Aikens(ニック・エイキンス)、Vasyl Cherepanyn(ヴァシル・チェレパニン)、Zippora Elders(ジッポラ・エルダース)、Charles Esche(チャールズ・エッシェ)、Nav Haq(ナヴ・ハック)、Serge Klymko(セルゲイ・クリムコ)、Magda Lipska(マグダ・リプスカ)。

編集部