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「HIKE!HIKETA -東かがわ国際芸術祭-」で何があったのか。参加を辞退したアーティストに聞く経緯と問題点【5/5ページ】

アーティストが声を上げられる環境を

 最後に、本件に関しての郁川氏の率直な思いを聞いた。「芸術祭は若手作家にとって、普段とは違う制作環境だったり、 地域の人や鑑賞者の方々との出会いが得られる貴重な場です。私もその可能性を信じて参加したのですが、そういったポジティブなイメージの裏に、制度的なリスクが潜んでいるんだということがよくわかりました。経験の少ない私たちのような作家がそのリスクを押しつけられてしまったのだと思います」。

 さらに郁川氏は参加を決め、準備が進んでいった状況のことも振り返る。「最初から『おかしい』と感じる場面はありましたが、初年度だから、主催者も若く経験が足りないから、と自分に言い聞かせてしまっていたのだと思います。いま考えると、大丈夫だと思い込みたかっただけなのかもしれません。結局、運営業務が円滑に行われないので、作品制作と並行して運営準備にも追われてしまいました。そもそも芸術祭の内部に相談窓口やアーティストと主催を仲介する仕組みがなく、その主催者の一存で物事が進む状態だったので、やはり問題が起きても、誰に相談すれば解決できるのかがわからなかったのだと思います」。

「HIKE!HIKETA -東かがわ国際芸術祭-」の会場とされている民家に置かれているポスター 提供=郁川舞

 加えて、郁川氏はアーティストが声を上げることの難しさについても指摘する。「とくに私より若い学生のアーティストなどが、声を上げにくい状態や環境がつくられていたと思います。その結果、個人的な攻撃を受けてしまったり、個人の話として無理に収めようとしてしまったり、さらには孤立してしまったり。自分が悪かったんだと、自分を責めてしまっているアーティストさんも本当に多いんです。本来、参加の声がけをされたアーティストは70名以上いるはずなのに、全然声が上がらないということは、声が上げられないということでもあるのだと思います。それが問題の発見と解決を遅らせ、より深刻化させてしまったのではないでしょうか」。

 郁川氏は、芸術祭に参加したアーティストの作品返還を求めて、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京による、東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」に相談をしており、弁護士の準備などを進めている。

 なお、本件について芸術祭主催の奥廣氏にも取材の依頼を行ったが、期日までの返答はなかった。

※芸術祭公式ウェブサイトの情報は8月25日時点のものを参照