内藤礼作品と民藝、そして「土徳」を感じる富山の旅へ【2/3ページ】

内藤礼と民藝に囲まれる「楽土庵」

 この「土徳」をコンセプトに、22年10月にオープンしたアートホテル「楽土庵」は、旅する人への癒しと地域の再生に寄与する「リジェネラティブ(再生)・ツーリズム」を推進する1日3組限定のスモール・ラグジュアリーな宿。宿泊料金の2パーセントが散居村の保村活動の基金に充てられるということもあり、その活動に賛同する海外からの富裕層も宿泊するという。

楽土庵内部

 アズマダチの伝統的な民家を活用した建築にはそれだけでも見応えがあるが、個性が光る3つの客室はさらに多くの宿泊客を惹きつけている。

 ハタノワタルによる手漉き和紙を壁と天井一面に施した「紙」の部屋、壁と天井が節のある地元の絹織物「しけ絹」で覆われた「絹」の部屋、そして林友子が敷地内の土を採取して制作したコミッションワークを設置した「土」の部屋。各部屋がまったく異なる雰囲気を有しており、置かれている家具・作品も異なる。そのため、部屋を変えて泊まるリピーターも多いという。

「紙」の部屋
「紙」の部屋
「絹」の部屋
「絹」の部屋
「土」の部屋
「土」の部屋

 民藝の考えを再解釈して集められた工芸やアート作品で彩られているこの楽土庵。開業当初から内藤礼のドローイング作品《color beginning》(2021)と彫刻作品《ひと》が常設されているが、これに加えて新作が設置された。それが「返礼」だ。

 本作は、水路《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》とその周囲の庭が一体となったインスタレーション。《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》はステンレススチールの細い水路に水が張られており、そこに鑑賞者が息を吹きかけることで波が立ち、水面が揺れる。その先には散居村が広がっており、作品が鑑賞者と風景を媒介する役割を持つ。

内藤礼 返礼 Giving Back / Reconnaissance 2023
Photo by Nik van der Giesen

 庭も作為を極力抑え、西洋芝ではなく日本の野芝を使用。季節の変化を楽しめるような工夫がなされている。

 当初からここのために作品をつくるため、内藤は工事前から何度も足を運び、作品の構想を練ってきたという。実際に足を運び、自らの息を吹きかけることで、この作品の意味が実感できるだろう。

内藤礼 返礼 Giving Back / Reconnaissance 2023
Photo by Nik van der Giesen
内藤礼 返礼 Giving Back / Reconnaissance 2023
Photo by Nik van der Giesen

編集部

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