内藤礼作品と民藝、そして「土徳」を感じる富山の旅へ【3/3ページ】

550年の歴史を紡ぐ「善徳寺 杜人舎」

 もうひとつの「土徳」を感じるアートホテルは、550年の歴史を持つ名刹・城端別院善徳寺の敷地内に2024年3月にオープンした「善徳寺 杜人舎」だ。

 城端別院善徳寺は北陸における浄土真宗信仰の中心寺院。民藝運動の創始者・柳宗悦が晩年に62日間滞在し、民藝思想の集大成となる論文『美の法門』を執筆した場所でもある。

城端別院善徳寺
城端別院善徳寺には見事な透かし彫りの井波彫刻が残る
杜人舎の外門

 「杜人舎」のもとの建築は、柳の愛弟子であり富山の木工家・建築家で、富山市民芸館の設立にも尽力した安川慶一が設計した善徳寺内の研修道場。近年は使われないまま放置されていたが、「水と匠」が後世に残すべく改修に名乗り出た。改修設計は、富山出身の建築家でteamLab Architectsパートナーの浜田晶則率いる浜田晶則建築設計事務所が手がけた。オリジナルの空間が持つ良さを生かしつつ、インフラは最新のものにアップデート。研修・宿泊のほかにも様々な活動ができるよう設計されている。

 湾曲した屋根瓦が特徴的な外門をくぐり、敷地内へ進む。芹沢銈介の作品に迎えられる玄関から、すでにゆったりとした雰囲気が感じられるだろう。

杜人舎
茶室のような1階の談話室

 1階の巨大な部屋には、柳宗悦がデザインした松本民芸家具のローテーブルが並ぶ。ここは仏教や民藝に関する講座などを開催する講堂でもあり、地域の人が気軽に利用できるカフェとしても利用される。隣接する工芸作品を扱うショップでは地元作家の作品や各地の民藝品も購入可能だ。

1階の講堂
1階のショップには地元作家の作品も並ぶ。ぜひお土産に
1階廊下

 2階は長期滞在も可能な全6室(ツイン5室、トリプル1室)の宿泊施設。客室には、それぞれ棟方志功や浜田庄司、河井寛次郎といった民藝作家や全世界の民藝品が展示され、民藝を身近に感じ、学び、交流し、滞在することができる。まさに泊まれる民藝館だ。

客室
客室
杜人舎の朝食

 杜人舎に夕食はついていないが、これはあえて宿と食を分離することで、地域活性化を促進するという取り組みの一環だ。また宿泊者は善徳寺の特別拝観ツアーにも参加可能。約1万点もの寺宝を有する広大な寺内には、狩野派による襖絵や柳宗悦が逗留した部屋、そして「美の法門」の石碑などがあり、存分に城端の文化を感じられるだろう。

善徳寺の本堂
善徳寺の台所
柳宗悦が逗留した部屋
豪華な襖絵も健在

 水と匠は、今後も散居村の維持再生などに引き続き取り組む姿勢を見せる。活動に共感する投資家から協力を願い出る声もあるという。代表の林口は、「私たちの活動はあくまできっかけづくりであり、最終的には地域の方々にこの地域の価値に気づいてもらうことが目的。土地の文化を未来に残すモチベーションにもつながる」と今後の展望を語る。

 富山だけでなく、それぞれの地域にあるはずの土徳。2つの施設は、それを考えるきっかけとなる体験を提供してくれる場所だ。

編集部

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