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2023.8.26

韓国実験芸術のパイオニアから、奈良美智、カプーア、ジャッドらまで。フリーズ・ソウル2023期間中に見るべき展覧会

9月6日〜9日に韓国・ソウルのCOEXで開催が予定されている第2回目の「フリーズ・ソウル」。同フェアの開催期間中にソウルで見るべき展覧会をお届けする。

ドナルド・ジャッド Untitled 1985
Courtesy Thaddaeus Ropac gallery, London • Paris • Salzburg • Seoul
Donald Judd Art © Judd Foundation/Artists Rights Society (ARS), New York. Photo by Chunho An
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ソウル北部:三清洞(サムチョンドン)エリア

「キム・クリム」(国立現代美術館ソウル館)

 ソウル随一の観光名所・景福宮(キョンボックン)にほど近い国立現代美術館(MMCA)ソウル館で、韓国実験芸術の先駆者である金丘林(キム・クリム、1936〜)の個展が始まっている。

 1950年代から今日に至るまで、様々なメディア、ジャンル、テーマを横断し、韓国の現代アートの最前線で活動を続けてきたキム。本展は、キムの美術史的業績と現在までの活動の軌跡に新たな光を当てることを目的とし、その前衛的なアートを紹介するもの。

 朝鮮戦争後の実存的危機のなかで制作された1960年代の初期絵画から、1960〜70年代の韓国実験芸術のムーヴメントのなかで発表されたパフォーマンスやインスタレーション、そして1980年代半ばから続く「陰と陽」シリーズに加え、映画、ダンス、音楽、演劇を横断する大規模なインスタレーションやハイブリッド・パフォーマンスも展示。キムの人生の歩みに沿って韓国美術史への理解を深めることができる機会だ。

会期:2023年8月25日〜2024年2月12日
会場:国立現代美術館ソウル館
住所:30 Samcheong-ro, Jongno-gu, Seoul
電話番号:+82 2-3701-9500 
開館時間:10:00〜18:00(水土〜21:00)
休館日:無休
料金:一般 2000ウォン

「Suh Yongsun: My Name is Red」(アートソンジェセンター)

 MMCAの裏側に、韓国の実験的な現代美術の展示を行う私設美術館・アートソンジェセンターがある。ここで、韓国の画家および彫刻家であるソ・ヨンソン(1951〜)の個展「My Name is Red」が10月22日まで開催中だ。

「Suh Yongsun: My Name is Red. Part 1 Gold」の展示風景より Courtesy of Art Sonje Center. Photography Cheolki Hong © 2023. Art Sonje Center all rights reserved

 ソは1970年代より、「人、都市、歴史」の相互作用を通して韓国の現代性を探求する作品を制作してきた。本展は、ソの芸術的探求の焦点である「絵画的空間」に光を当て、その制作を韓国近現代絵画の従来の論理とは異なる新たな枠組みのなかに位置づける試みである。1980年代〜90年代の作品から最新作まで、70点以上の作品を紹介している。

 また、9月1日〜10日には韓国系イギリス人アーティスト、ボブ・キルとデンマークのアーティスト、ニナ・バイエによるパフォーマンス形式の展覧会「Field Trip」も開催。なお、9月7日の夜にはフリーズのVIPを対象に、アルゼンチンのアーティスト、アドリアン・ビジャール・ロハスの作品上映とトークも行われる。

会期:2023年7月15日〜10月22日
会場:アートソンジェセンター
住所:87 Yulgok-ro 3-gil, Jongno-gu, Seoul
電話番号:+82 2-733-8949
開館時間:12:00〜19:00
休館日:月
料金:一般 1万ウォン

「Anish Kapoor」(Kukje Gallery)

 サムチョンドンエリアに3つの建物(K1、K2、K3)を持つ韓国最大のギャラリーのひとつ、Kukje Gallery。イギリスの現代美術を代表するアニッシュ・カプーアの個展が全3館を使って行われる。

 K3を皮切りに、カプーアは4つの一枚岩の彫刻を設置。「Shadow(影)」と「Ingest(摂取)」を名付けた作品では、カプーアの代表的な赤と黒の顔料で彩色されている。K2では、カプーアの油彩画作品、K1ではグワッシュを使った控えめな作品や、黒の顔料を用いた作品が出現する。素材の限界に挑戦し続けるカプーアの最新の試みを目撃してほしい。

会期:2023年8月30日〜10月22日
会場:Kukje Gallery
住所:54 Samcheong-ro, Jongno-gu, Seoul
電話番号:+82 2-735-8449
開館時間:10:00〜18:00(日〜17:00)
休館日:無休
料金:無料

「Botched art: the meanderings of Sung Neung Kyung」(Gallery Hyundai)

 韓国を代表するギャラリーのひとつ、Gallery Hyundai。韓国コンセプチュアル・アートの先駆者として知られるソン・ヌンギョン(1944〜)の個展「Botched art: the meanderings of Sung Neung Kyung」を見ることができる。

展示風景より Courtesy of Gallery Hyundai

 展覧会タイトルにある「botched art(下手なアート)」や「meanderings(蛇行)」という言葉は、ソン独自のアイロニーの美学を象徴するキーワード。非主流派としてのアイデンティティを貫き、自らの作品に「botched art」と銘打つことで、伝統的な美学を反省し、従来の芸術のルールや人間の生そのものに疑問を投げかける様々な実践を繰り返している。

 ソンにとってミニ回顧展でもある本展では、そのキャリアを網羅する140点の作品を紹介。コンセプチュアル・アート時代の代表作や、新聞報道から写真を再編集した1980年代のサイトスペシフィックなフォト・インスタレーション「Venue」シリーズなど、その制作の軌跡をたどる。

会期:2023年8月23日〜10月8日
会場:Gallery Hyundai
住所:8 Samcheong-ro, Jongno-gu, Seoul
電話番号:+82 2-2287-3500
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月
料金:無料

ソウル中心部:ソウル駅〜漢南洞(ハンナムドン)エリア

「80 Urban Reality」(ソウル市立美術館)

 ソウル駅にも近い、ソウル中心部にある徳寿宮(トクスグン)の横に位置するソウル市立美術館。1980年代の韓国の都市環境に光を当てる「80 Urban Reality」展もフリーズの期間中に見たい展覧会だ。

 韓国は、「漢江の奇跡」と呼ばれた1960~70年代の高度経済成長を経て、1980年代に都市化の新たな段階に入った。しかし、この驚異的な成果は、複数の社会問題を伴っていた。労働者は劣悪な労働環境に苦しむほか、農村経済は弱体化し、農村住民の都市への移住が加速した。江南地域の大規模な開発、中産階級の出現、輸入自由化によって、都市とその周辺では消費文化が育まれた。

 本展では、このような劇的な社会変化と都市化に伴い、アーティストたちが独自の手法と視点で制作した多様な作品を展示。これらの作品を通じ、韓国社会の重層的な現実を理解することが期待される。

会期:2023年5月25日〜2024年12月31日
会場:ソウル市立美術館
住所:61 Deoksugung-gil, Jung-gu, Seoul
電話番号:+82 2-2124-8800
開館時間:10:00〜20:00(土日〜19:00)
休館日:月、1月1日
料金:無料

「LAWRENCE WEINER: UNDER THE SUN」(アモーレパシフィック美術館)

 韓国の大手化粧品メーカー、アモーレパシフィックによって設立され、ソウルの主要な交通の要衝・龍山(ヨンサン)駅にほど近いアモーレパシフィック美術館。コンセプチュアル・アートの創始者と称されるローレンス・ウィナー(1942〜2021)の個展「LAWRENCE WEINER: UNDER THE SUN」が8月31日に開幕する。

 本展は、ウィナーの韓国における初の個展であると同時に、その没後、初めて包括的な美術館個展でもある。美術館の壁や床に設置されたインスタレーションに加え、エディション、ドローイング、ポスター、漫画、ヴィデオなど、彼の幅広い芸術活動を一挙に紹介する。

 「言語」を主要な素材にしたウィナーの7つの作品は韓国語に翻訳され、英語の原語とともに展示される予定。「主体-客体」「過程」「同時の現実」というテーマのもと、ウィナーの作品を同館コレクションから選りすぐりの作品を一堂に展示することで、歴史的な時間や文化空間を超えた新たな視覚的対話の場を創出することを目指している。

会期:2023年8月31日〜2024年1月28日
会場:アモーレパシフィック美術館
住所:100 Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul
電話番号:+82 2-6040-2345
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月
料金:未定

「Willow Drum Oriole」(リウム美術館)

 サムスングループのサムスン文化財団が運営する、韓国国内でもっとも影響力を持つ私設美術館のひとつであるリウム美術館が、9月7日より韓国を代表する現代アーティスト、カン・ソギョン(1977〜)の個展「Willow Drum Oriole」を開催する。

 平面作品、彫刻、インスタレーション、映像や、「アクティヴィティ」と呼ばれるパフォーマンスなど、様々なメディアや手法を通して、絵画というメディアの可能性の広がりを試みているカン。その作品は、伝統的でありながら現代的でもある、芸術的、文化的、社会的な文脈を幅広く包含している。

 カンにとって過去最大規模の個展となる本展では、これまでの代表シリーズから発展させた作品に加え、彫刻インスタレーションやヴィデオを含む多様な新作を展示。なお、同館で同時開催中のキム・ボム個展「How to be a rock」(7月27日〜12月3日)も忘れずにチェックしてほしい。

会期:2023年9月7日〜12月31日
会場:Leeum美術館
住所:60-16 Itaewon-ro 55-gil, Yongsan-gu, Seoul
電話番号:+82 2-2014-6901
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月
料金:無料

「Yoshitomo Nara: Ceramic Works」「Robert Nava: Tornado Rose」(ペース・ギャラリー・ソウル)

 リウム美術館から徒歩約5分の場所に、ペース・ギャラリーのソウル拠点がある。フリーズの期間中には、奈良美智とアメリカ人アーティスト、ロバート・ナヴァによる2つの個展が開催される。

ロバート・ナヴァ Chariot Armor 2023 © Robert Nava, courtesy Pace Gallery

 奈良の個展「Ceramic Works」は、2005年以来の韓国での初個展。陶磁器約140点と、紙や厚紙に描かれたドローイング約30点を、個人コレクションから厳選して展示する。奈良が信楽で滞在制作を続けている過去3年間に制作した近作を中心にした作品群は、作家が所有するキャビネットの中や、特注の木製テーブルや棚の上に設置されるという。

 いっぽうのナヴァ展「Tornado Rose」では、作家が今年制作したスケールの異なる6点の新作ペインティングが紹介。幻想的な生き物やオブジェ、風景を生き生きと描くことで知られるナヴァは、ペインティングやドローイングに哲学的・心理学的な要素を盛り込み、しばしば暗く瞑想的で実存的な空間をつくり出している。

会期:2023年9月5日〜10月21日
会場:Pace Gallery Seoul
住所:267 Itaewon-ro, Yongsan-gu, Seoul
電話番号:+82 2-790-9388
開館時間:10:00〜18:00
休館日:日月
料金:無料

「Donald Judd」「Joseph Beuys Reservoirs of impulse: drawings, 1950s-1980s」(タデウス・ロパック・ソウル)

 2021年にソウルに拠点を開設し、今年さらにスペースを拡張したタデウス・ロパック・ソウルも、フリーズの期間中に2本の個展を予定している。

ドナルド・ジャッド Untitled 1992-93/2020
Courtesy Thaddaeus Ropac gallery, London • Paris • Salzburg • Seoul
Donald Judd Art © Judd Foundation/Artists Rights Society (ARS), New York. Photo by Timothy Doyon

 韓国で約10年ぶりのドナルド・ジャッド個展では、ニューヨークのジャッド財団のアーティスティック・ディレクターであるフラヴィン・ジャッドをキュレーターに迎え、1960年代初頭から1990年代初頭までの30年以上にわたるジャッドの作品を展覧。初期の絵画作品と立体作品に加え、1991年の韓国滞在中にジャッドが構想した20点の木版画の作品群にもスポットを当て、韓国で初めて紹介する。

 新しく拡張された1階ギャラリーでは、ヨーゼフ・ボイスのドローイングに特化した韓国初の展覧会「Reservoirs of impulse」をこけら落としとして開催。ヨーロッパの戦後美術の最前線で活躍したボイスの多面的な活動を、ボイスにとってコンセプチュアルな思考を結晶化させるための主要な手段であるドローイングを通じて考察する。

会期:2023年9月4日〜10月20日
会場:Thaddaeus Ropac Seoul
住所:122-1 Dokseodang-ro, Yongsan-gu, Seoul
電話番号:+82 2-6949-1760
開館時間:10:00〜18:00
休館日:日月
料金:無料

ソウル南部:江南(カンナム)エリア〜キンポ国際空港

「Nine Colors & Nine Furniture」(アトリエ・エルメス)

 漢江を越えて江南(カンナム)エリアに行こう。まずは、ソウルのメゾンエルメスにあるアトリエ・エルメスで開催中のミーナ・パク展「Nine Colors & Nine Furniture」をチェックしたい。

展示風景より
Photo Sangtae Kim © Fondation d'entreprise Hermès

 1973年生まれのパクは、1999年以来、色とかたちの両方を集中的に扱っている。長年にわたり、美術史、プログラミング言語、アンダーグラウンド・カルチャーを駆使して、素材を横断した絵画を制作してきた。

 本展では、展覧会のタイトルでもある「9つの色と9つの家具」と題された最新作を発表。黒、青、緑、灰色、オレンジ、赤、紫、白、黄色のいずれかを含む色のパレットを使った絵画作品は、韓国の家庭用家具から着想を得た組み合わせであり、工業的に生産された色彩を批判的かつ体系的に読み解くことを示唆しながら、絵画の歴史と、大量生産された消費財によってかたちづくられた私たちの日常環境における色の役割を問いかける。

会期:2023年7月28日〜10月8日
会場:Atelier Hermès
住所:Maison Hermès Dosan Park B1F 7, Dosan-daero 45-gil, Gangnam-gu, Séoul
電話番号:+82-2-3015-3248
開館時間:11:00〜19:00
休館日:無休
料金:無料

「PANORAMA」(SONGEUN)

 アトリエ・エルメスに隣接するペロタン・ソウルの新スペースをチェックし、次はトサンデロにある、ヘルツォーグ&ド・ムーロンが建築を設計したアートスペース「SONGEUN」に行きたい。

 30年以上にわたり、将来有望な韓国人アーティストの支援に尽力してきたSONGEUN。10月28日まで幅広いテーマとメディアを探求する16人の才能を紹介している。B2の展示エリアでは、パフォーマンスやサウンド・インスタレーションなど、ジャンルの垣根を越えたユニークなアプローチを行う「PANORAMAプログラム」も行っており、韓国の現代アートの最前線を堪能してほしい。

 なお、同スペースの徒歩圏内にあるケーニッヒ・ギャラリー・ソウルでのイケムラレイコ展(9月2日〜11月11日)と、グラッドストーン・ギャラリー・ソウルでのアレックス・カッツ展(9月5日〜10月21日)もお見逃しなく。

会期:2023年8月16日〜10月28日
会場:SONGEUN
住所:441 Dosan-daero, Cheongdam-dong, Gangnam-gu, Seoul
電話番号:+82 2-3448-0100
開館時間:11:00〜18:30
休館日:日
料金:無料

「Nine Tailed Tall Tales: Trickster, Mongrel, Beast」(Space K)

 最後は、空港に向かう途中で、ソウルの金浦(キンポ)国際空港からすぐのところにあるSpace Kに寄ってみてはいかがだろうか。

展示風景より Courtesy of Space K

 韓国のコーロン(Kolon)グループによって2011年に設立され、20年9月には現住所に拡張オープンしたSpace K。韓国の若手・中堅アーティストの展覧会や、韓国ではあまり知られていない海外のアーティストの展覧会を開催するなど、国内外のアーティストを継続的に支援している。

 10月12日まで開催されている、ロンドンを拠点に活動する韓国系カナダ人アーティスト、ザディ・シャ(1983〜)の個展「Nine Tailed Tall Tales: Trickster, Mongrel, Beast」では、33点の新作ペインティングと彫刻からなる意欲的なサイトスペシフィック・インスタレーションに加え、多様なメディアを用いた最新作を展示。韓国系カナダ人としての個人的な経験を生かしながら、韓国の伝統的な精神的慣習の歴史を探求し、再創造された民間伝承を融合させた作品群になっている。

会期:2023年7月13日〜10月12日
会場:Space K
住所:32 Magokjungang 8-ro, Gangseo-gu, Seoul
電話番号:+82 2-3665-8918
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月
料金:一般 8000ウォン