未来派
百年後を羨望した芸術家たち
美術評論家の多木浩二(1928~2011)はイタリアの文化に造詣が深く、「進歩」よりも「退行」の美学に独自の歴史哲学を見出していた。その思想は一見すると未来派の美学と相反するように思えるが、現代において未来派を再検証することは長大なスパンで歴史をとらえる作業にもつながる。本書には多木が遺した未来派にまつわるテーマ別のテキスト、今福龍太との対談を収録。多木陽介が訳した未来派の宣言をなんと11篇も付し、日本語で読める数少ない未来派論に仕上がっている。(中島)
『未来派
百年後を羨望した芸術家たち』
多木浩二=著
コトニ社|3600円+税
宇佐美圭司
よみがえる画家
絵画の可能性を追求する制作者にして総合知を芸術論に昇華する理論家。多方面に及ぶ活躍で戦後現代美術史に重要な足跡を残した宇佐美圭司。その待望の回顧展カタログである本書は、初期の抽象絵画、レーザー光線によるインスタレーション、廃棄された東京大学所蔵の《きずな》(1977)の再現画像、晩年の「大洪水」シリーズまでを網羅する。《きずな》の思い出を振り返る高階秀爾、宇佐美に多大な影響を受けた岡﨑乾二郎ら盤石の執筆陣によるテキストからも、画家の仕事の重要性が伝わってくる。(中島)
『宇佐美圭司 よみがえる画家』
加治屋健司=編
東京大学出版会|2500円+税
ポスト・アートセオリーズ
現代美術の語り方
映画・映像理論やメディア理論を専門とする著者が現代美術を学ぶうえで欠かせない主要理論を紹介。アーサー・C・ダントーの有名な論文「芸術の終焉」が決定的にした芸術批評の前提、ポストモダニズム美学の歴史的展開、批評誌『オクトーバー』周辺で活躍する論者の仕事とその領域横断的な影響力を整理して、ポストアートと呼ばれる今世紀の言説に連なる芸術理論史をガイドする。後半は著者の過去の批評集。前半の「理論編」に対する「実践編」の趣きで、「理論をいかに使うか」を著者自らが体現した。(中島)
『ポスト・アートセオリーズ
現代美術の語り方』
北野圭介=著
人文書院|2300円+税
(『美術手帖』2021年8月号「BOOK」より)