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美術手帖2021年8月号
「女性たちの美術史」特集
「Editor’s note」

『美術手帖』2021年8月号は「女性たちの美術史」特集。雑誌『美術手帖』編集長・望月かおるによる「Editor’s note」です。

『美術手帖』2021年8月号より

 今年は女性作家に焦点を当てた展覧会が目白押しだ。東京では14ヶ国から16作家を紹介した「アナザーエナジー展」(森美術館)が、大阪・国立国際美術館では1960年代よりニューヨークを拠点に活躍した久保田成子の個展が開かれている(同展は新潟県立近代美術館を経て、11月に東京都現代美術館へも巡回。久保田は8月にニューヨーク近代美術館でも個展がある)。また金沢21世紀美術館ではアーティストの長島有里枝とのダブルキュレーションによる「フェミニズムズ / FEMINISMS」展を10月に、さらに九州派の創設メンバーであり、1950年代からいまも制作を続ける田部光子展(福岡市美術館)が来年1月に控えている。

 この背景には、美術史を再編しようという世界的な動きがある。欧米の白人男性の視点を中心に形成されてきた歴史観から、多様な地域や人種、ジェンダーへと視点を広げ、偏見や不均衡を見直す試みが1990年代前後から続けられてきた。そうした挑戦は美術館やコレクターの動向にも影響を及ぼし、日本の戦後美術の再評価にもつながった。「アナザーエナジー展」でも1950〜70年代に活動を始めた現役作家が取り上げられているように、近年は長くキャリアを積み重ねてきた作家、女性や非白人系の作家の再評価もなされている。

 そこで本特集では1920〜40年代の日本に生まれた、あるいは日本を拠点として活動した女性作家たちを取り上げる。社会的要因やジェンダーバイアスにより、これまで焦点が当てられなかった作家も多い。そうした作品の背景にある人生や考え方にふれ、さらにディテールを見つめると、イズムや流行にはとても収まらない、一人ひとりの生活や社会環境、時代的要因と制作の動機が密接に結びつき、必然的に生み出されたかたちであることがわかる。同時代の美術界の慣習や既成概念に必ずしもとらわれない表現に向き合う体験は、自分自身のなかにいつの間にか植え付けられた美術観や社会的な固定観念があることを気づかせてくれる。

 最後に、1970年代より既存の美術史にフェミニズムの視点を介入させてきた美術史家グリセリダ・ポロックのインタビューを載せた。彼女はいまの新自由主義的な資本主義システムが、「フェミニズムを黙らせ、自分たちに都合のいい部分だけを取り上げて、制度の現状維持を図ろうとしている」と指摘する。ゆえに、まだまだやることは山ほどある、そして「これを読むあなたのような人が、(中略)フェミニストというレッテルを貼るのではなく、批判的に考える勇気を与えるのです」と語る。このメッセージを真摯に受け止めたい。

2021.06
雑誌『美術手帖』編集長 望月かおる

『美術手帖』2021年8月号「Editor’s note」より)

編集部

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