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李禹煥の思索を収めた一冊から、「葬い」をめぐる対話まで。『美術手帖』8月号新着ブックリスト(2)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。「もの派」の代表的な作家・李禹煥の思索を収めた『両義の表現』から、研究者とアーティストによる死や「葬い」をめぐる討論を記録した『葬いとカメラ』まで、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

 

アート・ロー入門
美術品にかかわる法律の知識

 

 本書は美術品と法が持つ広範囲のつながりを示す概説書。美術品と法律の関わりでは、著作権が即座に頭に浮かぶが、本書のカバーする「アート・ロー」の範囲はもっと広い。例えば、美術品を展示する美術館の活動にも博物館法という法律的な根拠がある。また、美術品は国境を越えて流通するため、一国の法律ではとらえ切れない難しさを抱えている。本書では様々な係争事例が扱われるが、一つひとつの係争が美術品の持つ多様な側面をとらえており、法律の専門家でなくとも興味深く読み進めることができる。(岡)

『アート・ロー入門 美術品にかかわる法律の知識』
島田真琴=著
慶應義塾大学出版会|3400円+税

両義の表現

 

 「もの派」の代表的な作家として、また、理論的な背景を提供する書き手として知られる李禹煥の数十年にわたる思索を収めた小文集。日常のふとした瞬間から、コロナ禍での思いまで題材は多岐にわたる。もの派や単色画の作家たちに向けられる、時にあたたかく、時に厳しいまなざしは、同じ時代を並走した著者特有のものだろう。自身の制作原理を説いた文章からは、李の活動に通底する開かれた表現への関心や、人工知能に代表される閉ざされた表現に対する違和感をうかがえる。(岡)

『両義の表現』
李禹煥=著
みすず書房|4800円+税

葬いとカメラ

 

 文化人類学者である金セッピョルとアーティストの地主麻衣子を中心に、研究者やアーティストを招いて行われた討論の記録集。彼女たちの映像作品をもとに、死そのものや葬いのプロセスを記録することの葛藤について討議が繰り広げられる。また、討論の記録だけでなく、討議を通して明らかになった研究者とアーティストの立場のズレを双方の立場から描いた反省的な論考も収められている。それゆえ、言葉に関わる意識の違いを抱えながらも、議論を成立させるプロセスの貴重なドキュメントとなっている。(岡)

『葬いとカメラ』
金セッピョル、地主麻衣子=編著
左右社|1800円+税

『美術手帖』2021年8月号「BOOK」より)

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