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「あいトリ」補助金不交付問題は県vs国の法廷闘争へ。今後の展開を行政法学者が解説【2/4ページ】

3. 補助金不交付決定の争い方・その2(司法救済/取消訴訟・国賠訴訟)

3-1. 補助金不交付の取消訴訟(・補助金交付の義務付け訴訟)

 次に、裁判所による救済手段(司法救済)、すなわち訴訟提起による方法について説明しよう。考えられる訴訟の類型は、行政訴訟のうちの抗告訴訟である処分取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)と、一般には民事訴訟と解されている国家賠償請求訴訟(国家賠償法1条1項)である。

 前者については、補助金交付処分の義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟、行政事件訴訟法3条6項2号)を併合提起することもできる。ただし、この義務付け訴訟については、被告による理由の差替え・追加が広く認められうる結果を招く可能性があるなど実務上の(原告にとっての)デメリットもあると考えられることから(*7)、義務付け訴訟を併合提起するかどうかにつき、普通の代理人弁護士であれば慎重に検討するだろう。

 おそらく、ほとんどの行政法研究者や行政争訟を扱う実務家は、今回、愛知県が提起することになる取消訴訟は、自治体が私人と同様の立場(私人もまた立ちうる立場)で提起するものと考えられることから、問題なく(裁判所の審判対象となるものとして適法に)提起できるものと考えるだろう(*8)。

 もっとも、一切問題がないのかと言えばそう言い切れないのかもしれない。というのも、過去に最高裁はこれまで学説や判例でとくに言及されてこなかった(と考えられる)審判可能な事件とされる(裁判所法3条1項にいう「法律上の訴訟」に当たるといえる)ための新たな要件を判決理由中で示し、実体判断をしなかったことがある(宝塚市パチンコ店規制条例事件*9)。

 補助金不交付が争われている本件と、この宝塚市の判例とは、事案が異なるものの、少なくとも自治体が原告となる訴訟という点では共通することから、「法律上の争訟」性の認否が争点となること一応が予想される。「法律上の争訟」性が否定されてしまうと不適法な訴訟とされ(「司法権」[憲法76条1項]がおよばない事件とされ)、違法・適法等の審判がされないことになるのである。つまり、今回の訴訟においても最高裁が宝塚市パチンコ店規制条例事件で述べたような、その時点での学説判例ではほとんど想定外の判示がなされることにより、補助金不交付処分の違法性の判断がなされなくなるというリスクがゼロとはいえないように思われる。

 筆者としては、裁判所は「法律上の争訟」性を肯定したうえで実体判断をすべきと考えるが、上記のようなリスクが少しでもある以上、訴訟を提起するとともに、不服申出も行っておくのが無難であるとも考えられる。ゆえに、訴訟一本で争うという判断はややリスキーであるように思われる。

 なお、国地方係争処理委員会での審査がなされることを前提とする機関訴訟(地方自治法251条の5、行政事件訴訟法6条)は、取消訴訟と同じく行政訴訟の一種であり、最近では沖縄県名護市辺野古沿岸の埋立てをめぐる一連の紛争で用いられた(*10)が、今回のケースでは利用することのできない訴訟である。

3-2. 国家賠償請求訴訟

 以上のように、裁判所が「法律上の争訟」性を否定することで、違法・適法等の審判をしないというリスクがゼロとは言えない(であろう)ことを考慮し、原告側として考えられる対策は、国家賠償請求訴訟(国家賠償法1条1項)を併せて提起しておくことであろう。この点に関し、杉並区住基ネット訴訟(*11)においても、杉並区が東京都を被告として提起した受信義務の確認訴訟については「法律上の争訟」性が否定される可能性があったために(現に否定されている)、併せて国家賠償請求訴訟が提起されており、同訴訟は「法律上の争訟」性が否定されていないのである(*12)。

 また、国賠訴訟であれば、一部認容判決がなされるという可能性もあるため、愛知県側が一矢報いることになる面のある訴訟類型であるともいえよう。もちろん「一部」認容では十分な救済ではない、表現の自由を実質的に守るためには全額の認容が妥当であるなどの意見はあろうが、本稿はその当否について論じるものではない。

 なお、細かい話ではあるが、以前は、金銭(例えば本件の補助金)の給付に係る処分(申請拒否処分)について、取消訴訟を提起して処分を取り消すことなく、交付されなかった分の国家賠償請求を認容してよいかについては、裁判例の結論が分かれていたが、平成22年の最高裁判決により一応の決着がついたため、今回の補助金不交付の件でも、国家賠償請求訴訟を提起して請求が認容される可能性はあるといえよう(*13)。

編集部

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