六本木の21_21 DESIGN SIGHTで10月20日から始まった「野生展:飼いならされない感覚と思考」。理性や合理性に焦点が集まりがちな現代において、いまだ失われることのない「野生」をテーマに、様々な観点から再考する展覧会だ。
本展の展覧会ディレクターを務めるのは、思想家で人類学者の中沢新一。各地のフィールドワークを通じて、時代や領域を横断し、学問の垣根を超えた研究を行う中沢にとって、「野生」は20代の頃から重要な概念であったという。「人間の管理が進み、感覚も思考も飼いならされた現代のなかにあっても、人類の大元である野生の心は死に絶えていない。これをどうやったら取り戻せるのか、というのが本展のテーマ。単に乱暴に振る舞うような方法ではなく、深く、巧みなやり方でないと現代では通用しない。このテーマは今回だけで尽きるものではないが、第一歩を踏み出すことができた。」と中沢は語る。
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展示は、縄文時代から野生的な神のかたちとして信仰の対象となった「丸石神」のインスタレーションから始まる。この「丸石神」は、民俗学者であった父親が研究対象としていたこともあり、中沢にとって「野生」を意識した最初のきっかけでもあるという。
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続く「脳の中の森—南方熊楠の発見方法」のセクションでは、人間の心に野生状態を取り戻すことで新しい科学的方法を生み出そうとした明治時代の博物学者・南方熊楠の「世界の探求方法」を紹介。熊楠が実際に使用していた道具とともに、粘菌などをモチーフにしたガラス細工を並べる青木美歌の作品や、熊楠が研究に取り入れた仏教の概念「縁起」を視覚化したaircordの作品などが展示される。
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「『かわいい』の考古学:野生の化身たち」では、人間が生み出してきた「野生の依り代」としての造形物を紹介。縄文土器や鳥獣戯画、木彫りの熊からキティちゃんまで、人間と自然の境界が曖昧な日本人特有の感覚から生まれた「かわいい」造形を「野生」の観点から見る。
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メインとなるセクション「野をひらく鍵」では、芸術における研究やインスピレーションのフィールドを「野」ととらえ、独自の発見を活かし、感覚や思考とともに「野」をひらいている作家たちの作品を紹介。モクレンの実を使い、力強く吠える獣の声をダイナミックに描いた田島征三の《獣の遠吠え》や、動物とともに暮らしながら動物のなかに宿る「人間性」を感じさせるような彫刻作品を制作するステファニー・クエールの作品などが並ぶ。
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会場は、建築設計事務所・tecoにより、「森の中に分け入っていく」イメージで構成されている。那智の森の中で野生の発見方法を着想した南方熊楠の思考をたどるように、「野生」という言葉の意味を再考し、自分のなかに眠る「野生」と対話する貴重な機会を与えてくれる展覧会だ。
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