2018.5.19

専門教育を受けず、自らの力で描き続けた「路傍の画家」。江上茂雄の東京初となる個展が開催

専門教育を受けず、定年まで会社勤めを続けながら制作を続けた福岡出身の画家・江上茂雄の、東京では初となる個展が東京・武蔵野市立吉祥寺美術館で開催される。会期は2018年5月26日〜7月8日。

江上茂雄 夕立ちの後(部分) 1962-3頃
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 江上茂雄は1912年福岡県山門郡瀬高町(現・福岡県みやま市)生まれ。幼い頃から突出した絵画技量を発揮しながらも、12歳になる年に父を亡くすという家庭環境のもと、専門教育課程への進学は望まれず、高等小学校卒業後15歳で三井三池鉱業所建築設計課に就職する。以後、会社勤めの収入により母・妻と4人の子の生活を支えるかたわら、「画家として生きる」という少年時代の決意を貫き、独学でクレパス・クレヨンによる表現を極めていく。

江上茂雄 「私の鎮魂花譜」より 年代不詳

 72年の定年退職後は、それまで暮らした大牟田から隣接する熊本県・荒尾に転居し、度重なる眼病や脳血栓を克服。79年から2009年頃までの約30年間、正月と台風の日を除く毎日、水彩画の道具を担ぎ徒歩で自宅を出発し、その日の制作地を探し当て、1日1枚、戸外で写生による風景画を仕上げるという生活を続けた。14年2月、2万点以上に及ぶ絵を荒尾の自宅に残し、101歳でその生涯を閉じた。

 そんな江上茂雄の東京初となる個展が、武蔵野市立吉祥寺美術館で開催される。

江上茂雄 線路際 1962-3頃

 遠く離れた場所で芽吹く美術の最新動向をつねに意識しながらも、自分が生まれた土地を離れることなく、誰に教えを乞うこともせずに、制作者としての己と向き合い続けた江上茂雄。本展では、江上が青年期から描き続けた大牟田、そして定年後に毎日描いた荒尾の風景画に焦点を当てる。それらは、日々自然と対話し続けた江上の足跡をたどるものであり、土地の人々が「路傍の画家」としての江上茂雄を目撃した場と時の記録でもある。自らの力で作品と向き合ってきた江上の軌跡をゆっくりと追うことのできる貴重な機会だ。

江上茂雄 グランドの空 1993