「士郎正宗の世界展〜『攻殻機動隊』と創造の軌跡〜」(世田谷美術館、4月12日〜2025年8月17日)

士郎正宗『攻殻機動隊』は1989年に連載が開始されたマンガである。1995年に押井守によってアニメーション映画化されて以降幾度となく映像化され、2026年にも新作TVシリーズが放送予定となっている。そのSF世界は様々なコンテンツに影響を与えると同時に、『攻殻機動隊 MESSED MESH AMBITIONS』(講談社、2025)といった書籍をひも解けばわかるように、批評や理論にとってもいまだ刺激的な検討対象となっている。同展は、そんな「攻殻ワールド」の広がりの生みの親である原作者に焦点を当てたまたとない機会であった。まず驚かされたのは、アナログ原画におけるテクスチャーの創意工夫である。トーンについてはコマ枠ぎりぎりまで寸分の狂いもなく貼られ、要所では繊細に削られる。おそらくコピーを駆使してつくり上げたのだろうエフェクト的パターンにも目を奪われた。この徹底的な手仕事が織りなす「マンガ」の雄弁さ。それはCG導入以降も継続され、その厳密な3次元性とマニエリスティックな人体の対比は紙面としての強度をキープしている。30年以上にわたってコンテンツとして関心を集め続けている『攻殻機動隊』であるが、その魅力は世界観のみならず、士郎の描く絵の力にもあることを展示資料は物語っていた。
鈴木成一「鈴木成一書店」(BONUS TRACK GALLERY 1、12月5日〜14日)

日本を代表するブックデザイナー・鈴木成一のデビュー40周年を記念して期間限定でオープンした「鈴木成一書店」。「装丁はアートではない」という彼の職能理解のもと企画されたこのイベントは、鈴木がデザインした書籍10000冊が会場に搬入された圧巻の「展示」だった。もちろん書籍は会場で購入し持ち帰ることができるため、正確には展示とは言えないのであるが、そびえ立つ本の壁は平成、そして令和にかけて恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎、2016)などベストセラーをいくつも手がけてきた鈴木の仕事が、そのまま日本の出版史にとってなくてはならない存在であることを示していた。ディスプレイはインスタレーションとなり、来場者は一冊一冊を手に取りながら本と対話する。「鈴木成一書店」は、そんな書店が本来的に備えているインタラクティブ性を再認識する場を提供したのだ。
吉田勝信「Design, Foraging, Printing」(TIGER MOUNTAINギャラリー、9月3日〜28日)

吉田勝信の活動は、その独自性において無二の存在感を放っている。しかしそれは一周回って、彼が真摯に「デザイン」という営為と向き合った結果であることを私たちは理解しなければならない。同展は吉田が拠点とする山形の山や海から採集した植物、鉱物から顔料をつくり、自ら収集した箔押し機や石版印刷機、リング製本機などを駆使して「超特殊印刷」物をデザインするワークフローが一覧できる機会だった。採集における詳細な記録、収集した植物、そして印刷物や手作りの玩具。吉田のアートピースも含め構成された展示は、その「温かみ」の向こう側にある生産者/生活者の姿を立ち上げることになった。
























