Responding7「non capital letters 小文字の物語」(DAIS石巻ほか、 7月18日~7月27日)

武谷大介のキュレーションのもと、2018年から続くRespondingは、リサーチ、シンポジウム、ワークショップ、フェスティバルの場を横断しながら社会課題への応答を試みるパフォーマンスアートプロジェクト。今年度はタイ、インド、メキシコ、台湾、アルゼンチン、バングラディッシュ、ウルグアイ、スリランカ、カナダなど多地域から集まったアーティストがDAIS石巻に滞在し、共同生活を基盤としたパフォーマンスを実演した。日本国内で例外的な位置を占めるこのトランスカルチュラルなプロジェクトは、注意経済に組み込まれたアートマーケットが即座に切り捨ててしまう「身体を通して考える」ための遅い時間を設計する。アーティストが寝食を共にし、地域の差異を超えて畑仕事や会話を重ね、その結び目としてのパフォーマンスが結節するとき、アートと生活はともに世界との関わりを生き直す/編み直すための持続的なプロセスになる。コンセプチュアルなパフォーマンスアートが陥りがちなアート業界への自閉を超え、地域、生活、自然、文化、美的なものの諸関係をあらたに織り合わせていくトランスローカルなメディアとしてのパフォーマンスは、世界の複雑さを複雑なままに抱え込む応答の地平を示している。
「NEW PLATFORM – Alternative ASIA –」橋本聡《数秒、数日》(Art Center NEW 、9月13日)

2025年6月、横浜市の新高島駅地下1階にArt Center NEWがオープンした。運営代表の小川希のステイトメントに示される通り、ソーシャルメディアによって加速した世界のフラット化は、悲惨な虐殺から芸能人の不倫まで、わたしたちの情動をジャックする即時的な情報を等価に循環させ、世界との遭遇を未知(NEW)として受け取る感覚そのものを麻痺させてきた。9月12日から14日に開催された本展では、アジア各地のオルタナティブスペースとコレクティブが集結するフィジカルな場を設け、等価な情報空間とは別の回路で未知への感覚をつなぎなおしてみせた。さらに、13日に行われた橋本聡《数秒、数日》は、展示空間に配置されたインストラクションを介して、パフォーマー(小山友也、阪口智章)と鑑賞者をその実行者として等価な機能に還元するフラットな空間を設計した。同時に「息を止める/息が止まる」といったインストラクションが、鑑賞者の身体感覚に微細なズレを生じさせ、予測可能で効率的な情報の伝達回路にねじれをもたらす。外に開かれたネットワークと感覚の内に折り返されるインスタレーション。身体をフィジカルな夾雑物として介在させるこれらの方法もまた、フラットな情報空間の内部から世界の複雑さと出会い直す場を再編する実践と言える。
Dracom『唯一者とその喪失』(THE HALL YOKOHAMA、 12月8日~9日)

メディアとしてのパフォーマンスは、いかにして計測不能な世界の複雑さを引き受け直すことができるのか。その問いを演劇というジャンルにおいて、もっとも実り豊かなかたちで結実させたのが『唯一者とその喪失』だ。大阪を拠点に活動する公演芸術集団dracom(ドラカン)は、経済的に困窮した中年男性が、ベトナム国籍の女性を殺害した大阪の事件を下敷きに本作を構想した。ドラマと密接に結びついてきた演劇は、生き生きとした「人間」の描写に注力してきたが、本作でパフォームされるのは、もはやみずからの物語を主体的に生きる「人間」ではない。俳優の身体は政治・社会・経済・文化的な諸関係に絡め取られる破砕した生の織物として舞台上に配置され、「誰が買うん弁当屋のオードブル/桜もどんな顔したらええんか困る/マクドでええ」といった散文詩のような台詞を夢遊病者のように発し続ける。雨あられのように降り注ぐ言葉とイメージの断片をその瞬間瞬間に引き受けるパフォーマティブな行為そのものが、世界の複雑さを観客とともに編み直していく上演の時空間を生起させるのである。
























