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櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」:戦国を纏う廃材【4/4ページ】

 長山さんは「歴史をつくることが好きだから続けられる」と語る。制作の醍醐味は、なるべくお金をかけないことだという。牛乳パックや刀になる木材は近所からもらい、朱色は塗料ではなく粘着テープを使うことで、色落ちせず強度も増すという独自の工夫を凝らしている。驚くべきことに、図面や下書きは一切書かず、勘と計算だけで制作を進めるというのだ。胴回りに合わせて制作するなど、着る人に合わせたカスタマイズも可能。まさに、経験と直感のなせる業だ。

長山剛士さん

 長山さんは甲冑制作を通じて多くの人と出会えたことに喜びを感じている。旅館の調理場ではお客さんとの接点は少なかったが、甲冑制作を通して人との繋がりができたという。いまでも年賀状が届くなど、作品が縁で生まれた交流は続いている。

 「もう年だ」と語る長山さんの今後の夢は、意外にも家庭菜園だった。その言葉には、手を動かすことへの尽きぬ情熱と、日々の暮らしへの感謝が深く込められているように感じる。廃材に命を吹き込み、地域の歴史を未来へ繋いだ長山さんの甲冑は、薄暗い部屋の中で今後の出陣の機会を伺っているようだ。

長山剛士さん

編集部