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櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」:戦国を纏う廃材【2/4ページ】

 1942年11月14日生まれの長山さんは、現在82歳。生まれ育った浜松市浜名区引佐町渋川は、かつて渋川温泉で知られ、また戦国時代には井伊家の本拠地として栄えた歴史を持つ土地だ。12人兄弟の四男として育った長山さんの家業は、両親が開業した渋川温泉「湯元館」。長山さんは10歳年上の兄と共に旅館の切り盛りを担い、料理長として腕を振るった。その腕前は旅館を訪れる客を魅了したことだろう。旅館は2003年頃に営業を終え、長山さんの創作がここから本格的に幕を開ける。

 甲冑制作の原点は意外にも古く、1970年代まで遡る。最初のきっかけは、小学校の運動会で、娘が騎馬戦に出るために酒瓶の空き段ボールで鎧をつくったことだった。この手づくりの鎧は評判を呼び、新聞に掲載されたり、他校の教師からつくり方を教えてほしいと依頼されたりするほどだったという。当初は段ボールやタバコの空き箱を素材としていたが、タバコの空き箱を用いた作品は、専売公社が名古屋の大丸で開催した展覧会で優秀賞を受賞するほどの完成度を誇った。だが、タバコを吸わない長山さんにとって空き箱を集めるのは大変で、新聞記事をきっかけに見ず知らずの人々から送られてくることもあったという。

 旅館を閉めてからは、長山さんの甲冑制作はより一層本格化していく。朝6時から深夜0時頃まで、8畳間の居間にこもって作業する日もあり、その没頭ぶりは、妻から体調を気遣われ「いい加減にしては」とたしなめられるほどだった。

長山剛士さんによる作品

編集部