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櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」:戦国を纏う廃材【3/4ページ】

 素材もまた、進化を遂げた。当初の段ボールは雨に弱いという欠点があったが、転機が訪れる。2009年に地元の歴史研究家から赤備え具足づくりの依頼を受け、さらに2010年、井伊家元祖の生誕を記念した催しで制作を依頼された際、雨対策に悩んでいた長山さんの夢に牛乳パックが現れたのだ。これを機に、主要な素材は牛乳パックへと変わっていった。牛乳パックは、強度を増すために赤い粘着テープを貼ることで、特徴的な朱色を再現。この独自の工夫により、色落ちせず強度も増すという利点も生まれた。さらに、曲線が求められる部分には、アルミ缶を切り抜いて内部に入れることで、精巧さを追求している。

 長山さんの代表作は、まさに戦国武将・井伊直政が率いた精鋭部隊「井伊の赤備え」を再現した甲冑だ。赤備えづくりは2010年から始まり、2014年時点ですでに100着ほどを制作。これまでに制作した甲冑は180着にも上り、そのうち赤備えは120着を占める。制作にあたっては、図鑑を参考にしたり、滋賀県の彦根城博物館にも足を運んで史料を調査したりと、徹底した忠実な再現にこだわっている。サイズも2歳児向けから体重100キロの人向けまで幅広く、子供が着用体験できる鎧なども制作。1着仕上げるのに約2ヶ月かかり、なかには400時間を費やした大作もある。とくに、井伊直政の甲冑は牛乳パック80箱と着なくなったセーターの毛糸をほどいてつくられており、パーツの数は約297にも及ぶという。刀や脇差しも、近所で採れたヒノキの枝を削って仕上げるなど、細部にまで長山さんのこだわりが光る。

長山剛士さんによる作品
セーターの毛糸をほどいた部分も

 その甲冑は、たんなる工作の域を超え、地域の歴史と文化を伝える重要な役割を担っている。作品は浜松城や井伊家菩提寺の龍潭寺に展示され、市内各地で行われる観光イベントで何度も着用されるなど、町のPRに一役買っている。地元劇団の衣装として使用されたり、各地のイベントで披露されたり、工作教室を開いたりと、その活躍は多岐にわたる。井伊家ゆかりの地である引佐町では、毎年6年生が鎧を着て井伊家の芝居をする伝統があり、長山さんの作品がその舞台を彩ることもある。大河ドラマ「どうする家康」で井伊直虎が注目されると、各地で展示される機会が増えた。

編集部