美手帖女子部。#6 ハッピーエンドのない世界で。大島智子と奔放で愛しい「主人公」たち

「美術手帖」編集部が様々なジャンルの女子クリエイターたちを訪ねて「私が影響を受けた作品」を教えてもらう連載「美手帖女子部。」。第6回は、アンニュイな雰囲気の女の子のイラストで支持を集めるイラストレーター・大島智子さんに聞きました。

『TAMALA2010 a punk cat in space』を持って。ほかに、親にすすめられて見た映画『恐怖の報酬』のバッドエンドも印象的だったと語ってくれました

『TAMALA2010 a punk cat in space』を持って。ほかに、親にすすめられて見た映画『恐怖の報酬』のバッドエンドも印象的だったと語ってくれました

 大島智子さんは、都会の片隅で生きる女の子たちをモチーフとした、生活感ある作品で人気のイラストレーター。独特の作風は、どのようにして生まれてきたのでしょうか。作品の中の女の子たちから影響を受けてきたという大島さんのお気に入りを、取材風景のチェキと一緒にご紹介します♡

映画『TAMALA2010 a punk cat in space』

 大島さんの作品といえば、瞳の大きな女の子のキャラクターが印象的。その作風が確立される過程には、アニメ映画『TAMALA2010 a punk cat in space』(2002)が大きな影響を及ぼしているそうです。大島さん自身も「あんまり知っている方にお会いしたことないです(笑)」というこの作品は、アーティストユニット「t.o.L.」が手がけた、シュールなスペース・ファンタジー映画。「栃木に住んでいた中学生のとき、雑誌『spoon.』で紹介されていて知りました。東京でしか公開されていなくて見に行けなかったのですが、その記事だけを見て、自分が求めてた世界がある、と思いました」。

 主人公のタマラは目が大きく、一見かわいらしいネコのキャラクターですが……。「ビッチだし、荒廃した東京みたいな『MEGURO』という汚い世界で強く生きていく。そこにすごく惹かれました。いまの私の作品の女の子の目は、タマラを模写しまくってできたんです」。世界はハッピーエンドだけじゃない。だけど、そういうあり方のほうが「本当」なんじゃないか。ずっとそんな思いを抱いてきたと語ります。

『こどものおもちゃ』などの少女マンガも小さい頃よく読んでいて、大好きだという大島さん

岡崎京子『pink』

 岡崎京子のマンガが大好きという大島さんが、中学3年生のとき初めて買った岡崎作品。主人公のOL・ユミは、ペットのワニを養うため、夜は風俗嬢として働きます。初めて読んだときは、日常を淡々と描くストーリーを退屈に感じ「つまんない本を買っちゃったな」と思ったいっぽう、なぜか忘れられず、しばらくして読み返すと感想が変わったと言います。

「なにも起きない永遠のような日々をこれだけ丁寧に表現する人ってほかにいないなと、衝撃を受けました。設定は少し変わっているけど、私たちの日常と変わらないことを延々と描いてる。それって怖いしすごい、と思ったんです」。

 そして、この作品のテーマといえるのは「資本主義」。「私は資本主義が怖いんです。ものを買うのが苦手だし、服も見るのは好きだけど、自分で着る勇気は出ない。でもこの子は可愛いお部屋じゃなきゃ嫌だ、おしゃれな服があったら絶対に欲しい、って言って、お金のためだったらなんだってする、そしてそれを全然苦と思っていない。怖がらない子って素敵だなと思って……」。主人公のそんな強さに憧れ、それから変わらず大好きな作品になったと話します。

SNS

「知らない人のTwitterとかInstagramを見ることが好き」という大島さん。のぞき見た「普通の女の子」の日常を、作品に反映することもあるそう。「すごくおしゃれなティーカップを灰皿にしている女の子をインスタで見つけて、それを絵に描いたこともあります」。

『青鬼の褌を洗う女』が収録されている坂口安吾の『白痴』を持って

坂口安吾『青鬼の褌を洗う女』

 戦中・戦後が舞台の小説『青鬼の褌を洗う女』も、主人公の女の子に惹かれた作品のひとつ。「主人公は、空襲がきても、『きれいだわ』ってぼーっとしてたりとか、避難所で座っていれば誰かがガムをくれるから楽しいって言っていたりとか。天然というか、憎めない。戦後は醜いおじいさんのもとで暮らすのですが、おじいさんを『かわいい、かわいい』って愛してる描写も出てくる。これもまた、退屈だけど愛しい日々なんです」。時代にも、男性にもすぐに染まり、だけどそれを後ろめたく思うことなく楽しんでいる、そんな女の子像に魅力を感じてきたといいます。「それって、普通の人はたぶん怖くてできないことなんですよね」。

大島智子さんの作品

作品は、パソコンで描いた下絵を出力して、シャープペンでトレースしし、再びデータ化してデジタルで着色する、というプロセスを経て完成。「デジタルのガチャガチャした絵の塗り方もアナログの描き味も好き」であることから、どちらの魅力も活かせるこの方法にたどり着きました

「大学は女子美術大学のメディアアート学科で、デジタル系の制作をするところだったので、gifアニメをつくったりしていて。その延長でイラストも描くようになりました」。Tumblrやpixivで発信する生活感のある女の子のイラストが、インターネットを介して人気を得るようになり、カオス*ラウンジやパープルームといった美術集団の展覧会にも参加するようになった大島さん。近年ではウェブ上にかぎらず活躍の場を広げ、昨年、初の作品集『Less than A4』を刊行。昔から憧れが強かったという東京の街を舞台に、渋谷でロケハンをして描き下ろしたイラストなどを掲載しています。

「大学生くらいの頃は、自分を投影して絵を描くことも多かったように思いますが、いまはモデルはいません。反映されているとしたら、自分や友だちの、昔の恋愛観かな。いまは落ち着いちゃったけど、若い頃は……(笑)。グレーな恋愛は楽しくはないけど、若いときしかできなかったことだし、愛しいなって思います」。

17年に開催された初個展「パルコでもロイホでもラブホでもいいよ」のビジュアルには、『TAMALA2010 a punk cat in space』のタマラとおそろいのタコのタトゥーが

 また、自身の変化に伴って、絵の世界観も変わってきたと話します。「私、大学生の頃は本当に笑わなかったんです。絵の女の子も笑わなかったし、そういうものだと思っていたけど、いまは普通に笑う。それから、私の作品では男の子はずっと脇役だったんですが、最近は感情を持たせたいなと思うし、男の子をメインで描くこともあります」。

 最近は新たな挑戦として、マンガを制作中だそう。「いままでは、かわいいだけの女の子を描いてきたけれど、マンガだと欠点もつくらないといけない。最初はそれに抵抗もあったけれど、頑張ってます」。大島さんの作品の根底にあるのは、明るいだけではない日常を愛おしむ目線。「26、7歳くらいのときに、周りの子たちが『そろそろメンヘラやめないとヤバいじゃん』ってなって、私もやめたんです」と笑い、彼女の作品に共感する、そして登場するたくさんの女の子たちについても「『いつか、みんな大丈夫になるんだろうな』って思って描いてます」と話してくれました。