しかし、今回の展覧会は、アーティストが自身の表現のための楽器を改めて構想する、という発想とは異なる目的を持っている。というのも、従来、楽器を演奏するための身体を持たない生成AI(人工知能)によって絵画として出力、軸装された「古い未来の楽器」が出発点となっているのだ。古い未来の楽器とは、つまり人間の想像力や身体能力の範疇で創造された──演奏されることによる結果としての音楽や、身体的な条件などから導き出された──従来の楽器ではない。これらは、生成AIによって再創造された過去の絵画に描かれた未来の楽器であり、足立はこのイマジナリーな楽器を彫刻家の大村大悟とともに、実際に演奏可能なものとしてリアライズすることを試みている。
それは、従来の自作楽器が制作されてきた文脈とは異なる方向性を提示するものである。従来の自作楽器がアーティストによって構想された、自身の身体性や音楽性の拡張であるのに対して、今回足立が試みていることは、現実とは異なる楽器の進化の歴史を、楽器の歴史的文脈を学習した人工知能という他者に予測させ、そこで考えられた「古い未来の楽器」を、実際に制作し、演奏の方法、それによって実現される新しい音楽の形態を創造することにある。おそらく、現状の生成AIによって生み出されたこれらの楽器は、現在私たちが楽器として認識しているものとかけ離れているように感じられるだろう。それは、人間による演奏を前提としていないのではないかと思わせるところがある。それに対して足立は、「人工知能には人工知能の文脈があり、われわれがそれを理解できないだけではないか」(プレスリリースより)と、肯定的にとらえることで、むしろそれを演奏する人間をアップデートすることを試みる。それこそが、私たちにはまだ知りえないが、人工知能には、そして私たちの祖先には、その進化の先に理解可能になるかもしれない楽器の形態なのである。

Adachi Tomomi, AI-generated image of Spirisapientlyra, 2024
展示されている楽器は4種類ある。水平に設置された指板と2本の平行に張られた弦、そして複数の垂直に直立した木の串を備えた楽器《Kambasautiroho》(2024)は、さらに電子回路が組み込まれている。弦の上で球状のオブジェクトを転がしたり、弦や木の棒を弾いたり叩いたりして演奏する。これは「古い未来の楽器」が、さらに現代のエレクトロニクスと合体したものなのだろうか。アンプを要し、光センサーや電子回路、ピックアップを備えた、電化したアコースティック楽器の趣もある。

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY
1本の弦が張られた《Spirisapientlyra》(2024)は、演奏者が擦弦楽器の弓を備えた烏帽子のようなものを被り、楽器本体のほうを動かして演奏する(かなり高度な技術が必要だ)。演奏はアンプで増幅される。

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY
おそらく多くの演奏者の身長を超えるだろう、大きな箏のような構造に、鉄琴のような部分を備えた15弦の楽器《Liyunqin》(2024)は、マレットや弓、指で演奏される。大きな本体は直立、傾斜など様々な状態での演奏が可能になっている。弓で演奏される音はかなりノイジーだ。

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY
管楽器と鐘が融合したかのような《Ventintibulum》(2024)は、先端に鈴が吊り下げられてはいるが、通常の縦笛と同じように演奏することが想像できる。現在の私たちにとっては、もっとも理解しやすいものではある。

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY

Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY



















