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「マリー・アントワネット・スタイル」(横浜美術館)開幕レポート。アントワネットの「モード」はいかに継承されたのか【4/4ページ】

第3章「永遠(とわ)に新しく─マリー・アントワネット・スタイル」

 最後となる第3章「永遠(とわ)に新しく─マリー・アントワネット・スタイル」では、ファッションを中心に、近年のアントワネット像の受容を紹介する。

左がロバート・ポリドリ《マリー・アントワネットの浴室、ヴェルサイユ》(2006)、右が《ケイト・モス、リッツ・パリにて(サラ・バートンのデザインのアレキサンダー・マックイーンのドレス、ヴァンクリーフ&アーペルのネックレス、ジュリアン・ディスのヘッドドレス)》(2012、『ヴォーグ』アメリカ版2012年4月号掲載)

 ファッション写真の大家、ティム・ウォーカー(1970〜)が、ケイト・モス(1974〜)をモデルに撮影した《ケイト・モス、リッツ・パリにて(サラ・バートンのデザインのアレキサンダー・マックイーンのドレス、ヴァンクリーフ&アーペルのネックレス、ジュリアン・ディスのヘッドドレス)》(2012、『ヴォーグ』アメリカ版2012年4月号掲載)は、現代のモードにおいても、アントワネットのエッセンスが有効であることを端的に示している。モスが着用した青いドレスは、アレキサンダー・マックイーン(1969〜2010)亡きあとに、ブランドのディレクターを引き継いだサラ・バートン(1974〜)の手によるもので、18世紀に流行したロココ朝の優美な曲線があしらわれている。アントワネットの時代が喚起するイメージが、ファッションの前線にいる制作者たちにとっても重要な発想源となっていることがわかる。

左から《アニメ柄トワル・ド・ジュイのミニ・パニエドレスと共布のブーツ》《ローブ・ア・ラ・フランセーズ風ガウンとジーンズ》《ケーキドレス》《ケーキドレス》(すべてジェレミー・スコットによるモスキーノ 2020-21秋冬コレクションより)

 ジェレミー・スコット(1975〜)はディレクターを務めるモスキーノの2020-21秋冬コレクションで、アントワネットスタイルを大胆にアレンジした。ローブにデニムパンツを組み合わせ、アニメ柄のパニエドレスなど、18世紀の王朝文化のルールを逸脱させ、現代の表現に落とし込んでいる。

《フローラル・ドレス》(アレッサンドロ・ミケーレによるヴァレンティノ2025春オートクチュール)、《イヴニングドレス「アウレリオ(輝き)」》(アーデム・モラリオグルによるアーデム2022春夏コレクション)、《ルック9》(アーデム2025春夏コレクション)

 グッチからヴァレンティノに移籍したアレッサンドロ・ミケーレ(1972〜)が、初めて手がけた2025年春のオートクチュールコレクション。このコレクションでミケーレは、アントワネット・スタイルのパニエを大きく張り出させ、そのシルエットの大胆さをより強調して見せている。

右手前3点がミレーナ・カノネロによる映画『マリー・アントワネット』(ソフィア・コッポラ監督、2006)の衣装、奥2点左からマーマレード《マリー・アントワネット・ドラァグ・アンサンブル》(2024)、映画『泥棒成金』(アルフレッド・ヒッチコック監督、1955)のグレース・ケリー着用のドレス

 また、本章ではソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』の衣装も展示されている。衣装をデザインしたミレーネ・カノネロ(1946〜)は当時のスタイルにマカロンの箱から着想したというパステルカラーやネオンカラーを組み合わせ、時代考証と現代性を高度に融合させた。

 本展はマリー・アントワネットが活躍した18世紀の宮廷文化を振り返るだけでなく、当時のモードがいかに現代の美意識を刺激し続けているのかを丁寧に接続する展覧会と言えるだろう。キーワードとなっている「モード」は、つねに移り変わり、価値が変動しつづけるものだが、そのたびにアントワネットのスタイルは再評価され、各時代の人々の心を捉える。本展はアントワネットを起点に、文化の継承がじつに多様で奥深いかたちで行われているのかを教えてくれる。