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書き手同士による徹底的な批判と連帯を。「第17回芸術評論募集」入選者授賞式が開催

2019年以来、7年ぶりの開催となった『美術手帖』の芸術評論募集。その入選者授賞式が、東京・神保町の日本出版クラブで行われた。

文=編集部 撮影=稲葉真

左から、入選者の石川嵩紘、久保田荻須智広、寺町英明、渡邉武徳、大友渉、吉見太一

 1954年に、次代の芸術評論を切り拓いていく新しい才能の開花を目指し、月刊『美術批評』の「新人評論募集」として創設された「芸術評論」。第2回以降は『みづゑ』『美術手帖』『国際建築』『デザイン』各誌の連動のもと、第8回以降は『美術手帖』を媒体に、批評家の登竜門として多数の才能を発掘してきた。

 これまで東野芳明や中原佑介、宮川淳をはじめとして多くの書き手を輩出してきた同賞。前回は、112件の応募のなかから、次席にウールズィー・ジェレミーと北澤周也の2名が、佳作に大岩雄典、沖啓介、はがみちこ、布施琳太郎の4名が選ばれた(第一席は該当者なし)。

 今回、『美術手帖』創刊77周年を記念して7年ぶりに行われた「第17回芸術評論募集」は、審査員の椹木野衣、清水穣、富井玲子、星野太の四氏による厳正なる選考の結果、113件の応募のなかから、一席に寺町英明、次席に久保田荻須智広と渡邉武徳の2名、佳作に石川嵩紘、大友渉、吉見太一の3名が選ばれた。 

 選考の結果は5月21日に美術出版社の特設サイトで発表され、その後、一席の作品と審査員による「選評座談会」が『美術手帖』2026年7月号(6月5日刊行)誌上に掲載された。

受賞者の言葉

 6月18日に東京・神保町の日本出版クラブ(神保町、東京)で行われた入選者授賞式では、6名の入選者が登壇。表彰状の授与とともに受賞スピーチが行われた。

一席を受賞した寺町英明

 「寝そべって見る革命──動画、気散じ、統覚の変容をめぐる美学的考察」で一席の寺町英明は、「目標があったというよりは、ただ書いたり読んだりするのが楽しかった(ことで書き続けていた)」、「仲間や家族、読者のお陰でこの15年のあいだ楽しく書いてこられたので、この栄誉を彼らに捧げたいと思います」と周囲への感謝を伝えた。

 「返済不能な作品たち──その死の設計へ向けて」で次席の久保田荻須智広は、「前回の芸術評論募集で受賞した、同世代のアーティストが書いたテキストを読み、(自分もアーティストなので)彼らに追いつきたいなと思った気持ちが応募のきっかけ」となり、「作家活動のなかで感じた疑問や悩みを一般化して多くの人に共有するために、初めて評論を書きました。このような賞を頂けて驚きとともに大変嬉しく思っています」と心境を述べた。

 「自然のもどき──藤本壮介《大屋根リング》批判」で同じく次席の渡邉武徳は、「じつは私が世に出す文章はこれが初めてなので、大変驚いている」と率直な感想を述べ、「空間や場所にまつわる権力や支配に対して、私だけは、これからも怒りを忘れずに書いていければなと思っております」と今後の活動に対する意欲を示した。

 「『リバース・オリエンタリズム』から見た生活陶芸 現代美術という帝国に向かう周縁」で佳作の石川嵩紘は、「これまで美術を『売る・集める・守る』ことをやってきた。いろいろな立場で経験した疑問をかたちにしたかった。 工芸以外についても積極的に批評したい」と執筆への思いを伝え、「秋に金沢市で現代美術ギャラリーを開業し、論考で示した内容をプレゼンテーションしていく」と展望を明かした。

 「演算された幽霊たちの臨床記録──唯物論的還元を超えた、美と愛の対象関係論」で佳作の大友渉は、「今回私はすべての文章をAIで作成いたしました」と発表した。「私自身は美術に関しては本当に素人ですが、AIによって人間が書く評論に辿り着く、あるいはそれを超えることを目指しました」と独自の方針を提示。また、「こうした取り組みを評価してもらえるのは、芸術評論募集の歴史と懐の大きさ」、「AIを使ってまた面白いことができたらと思っています」と感謝と意欲を述べた。

 「荒川修作/マドリン・ギンズという人類学的徴候──デュシャン的なパラダイムと訣別するため」で佳作の吉見太一は、「普段は出版社に勤め、そのなかで感じた反骨心が応募の契機」とし、「ドキュメンタリー映画『死なない子供、荒川修作』(山岡信貴監督、2010)で荒川が言っていた、人間の歴史は全部間違っているという言葉について、どういうことなんだろうと日々考えながら生きています」と自身の日常のなかで研究対象に向き合う姿勢を表現した。

審査を振り返って

 受賞者によるスピーチののち、今回の審査員の椹木野衣、清水穣、富井玲子、星野太による講評が行われた。

 椹木野衣は「前回の募集から現在に至るまで、戦争やAIの登場、コロナ・パンデミックなど大きな出来事が立て続けに起きた。その時代背景のなかで芸術評論として何を主題として浮上させるのかというのが決定的に重要」として、「その主題をどのような文体に収めていくのか。新しい評論や主題には新しい文体の発明が必要ですが、そのためにどんな創意工夫がなされているのかという観点から読ませていただきました」と審査を振り返った。

 清水穣は「潜在的な批評の書き手はいるのだなと思った」「日本の美術批評の場はとても狭く、砂漠に疎に草が生えているような状態はなんとかしたい」「書き手がこれだけたくさんいるので、関係者がその才能を花開かせる場所を与えていただけたらと望んでいる」「様々なテーマの批評があったが、今回は音楽についてのものがなかったのは寂しく思った」と述べた。

 富井玲子は「1963年に宮川淳が一席を取った際に選考委員の瀧口修造が『今日の美術の批評ジャーナリズムの堂々めぐり、不毛な用語と観念のからまわりに対して、その状況にひとつの認識のクワを入れている』と選評を書かれていた」として、「もしも『認識のクワ』を入れているのであれば、評論でも学術論文でもなるだけ多くの人に読まれるべき」、「美術史家の文章も嫌がらずに広く読んでいただきたい」と、学術的な文章も評価する姿勢を示した。

 星野太は「数十年前から批評は終わっているというクリシェが発せられてきましたが、もはや終わってすらいない、焼け野原だと思います」と批評界への鋭い指摘を行った。そして「批評はこれまで視野に入ってなかった読者をつくらなければならないとよく言われますが、批評の読者はまず第一に書き手であるべき」、「書き手が同時に読者であるというかたちで徹底的な批判を行わないかぎり、批評は今後も焼け野原であり続けると思うので、今後皆さんには連帯をしていただきたい」と応募者全体に向けて活発な活動を喚起した。

上段左から、審査員の星野太、富井玲子、清水穣、椹木野衣、下段左から、入選者の石川嵩紘、久保田荻須智広、寺町英明、渡邉武徳、大友渉、吉見太一の各氏

 なお、『美術手帖』2026年7月号での一席の作品と審査員による「選評座談会」掲載に続き、 受賞6作品は順次ウェブ版「美術手帖」に全文が掲載される。

編集部

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