「白も黒もダメ」──タイムズスクエアで表現を成立させること
しかし、《Morning Again》をタイムズスクエアで実現するプロセスは、決して容易なものではなかった。無数のモニターが連動するこの空間には、それぞれにオーナーやステークホルダーが存在し、表現に対する判断も一様ではない。1度フィードバックを得るのに約2週間を要し、修正の機会は実質3回ほどに限られていたという。
「最初に提出した段階では、ほとんどすべての提案が認められず、約30件『使用できない』と判断を受けました。この場所で表現を成立させることの難しさを強く実感した瞬間でもありました」。

松山がそう振り返るように、タイムズスクエアという場では、美術館とはまったく異なる論理が働く。「美術館は制約が多いように見えて、じつは表現の幅が広く認められている『シェルター』のような場所なんです。でもタイムズスクエアは違う。あのモニターはすべて誰かの所有物で、企業が関わっている以上、ネガティブな要素や誤解を生む可能性があるものは徹底的に排除される。結果として、発言の自由はむしろ大きく制限されるんです」。
実際、象徴表現の扱いは想像以上に厳格だった。例えば、LGBTQカラーを想起させるアメリカ国旗は即座に却下され、モノクロ表現も「戦争を連想させる」という理由で認められなかった。「Follow me」といった言葉ですら、特定のプラットフォームを想起させるとして使用が制限された。「白も黒もダメで、グレーですら難しい。その制約のなかでいかに作品として成立させるかを考え続ける必要がありました」。

こうした制約のなかで、松山は表現の転換を試みる。アメリカ国旗の代わりに用いられたのが、キルトのモチーフだ。「キルトは、それぞれの人が思いを込めて布を縫い合わせていくものです。トップダウンではなく、ボトムアップで成り立つ構造として、アメリカの民主主義を考えるうえで有効だと思いました」。
さらに、アメリカの地図や鷲といった象徴も、抽象化されたパターンとして再構成されることで、政治的な直接性を回避しながら作品のなかに組み込まれている。「最終的に目指したのは、パトリオティズムそのものではなく、この国が『何が正しいのか』を問い続ける姿勢でした。多様な価値観がぶつかり合う社会において、答えはひとつではない。それでも問い続けること自体が、この国の強さだと思っています」。



















