もうひとつの大作《Black Noodles》(2023)は、人毛の国際取引とその政治的背景を扱ったインスタレーションだ。タイトルが示すように、黒い麺のような繊維とその毛羽立った姿が本作の中核を成す。
バネルジーにとって髪とは、「触毛や繊毛のようにロープを世界へと放つ政治体の腸(はらわた)であると同時に、商業活動を映し出すもの」だ。ある女性の身体を美しく飾るウィッグは、国境を越えて取引される別の女性の髪であり、目に見えない労働や搾取と切り離せない。新旧の合成繊維を人毛と並置することで、美と暴力、装飾と搾取が織り成す「髪の政治学」を露わにする。

これら2作品が、コンセプトと造形の両面において、本展全体の方向性を定めている。バネルジーにとって、移動は喪失であると同時に生成でもある。「住み慣れた家から離れて旅をすることは、新しい自分、新しい故郷をかたちづくること」だと彼女は語る。「自己とは変わり続けるもの」。その変容こそが本展の根幹にある思想だ。展示する場所、自分のコンディション、そして世界情勢を反映しながら、バネルジーは即興的に作品をアレンジしてきた。作品はどこへ行っても固定されることなく、空間や時代と対話し続ける。
バネルジーは本展開催に際してこう語る。「世界全体が『ホーム』であると考えるためには、私たちは互いを理解する必要がある。自分とは異なる視点を持つ人の存在を恐れず、許容することが大事だ」。その言葉は分断が深まる今日において、静かだが確かな力を持つ。




















