「ディアスポラ」という言葉は、古代ギリシャ語に由来し、種など「まき散らされたもの」、ひいては離れた地で芽吹きをもたらすという意味を含む語だった。しかし、第2次世界大戦を経て、ユダヤ人の「民族離散」の歴史を表現するものとなった。
紛争や大規模な天災などによって、いまなお多くの難民が故郷を追われ、離散しながらも故郷への帰属意識を持ち続けており、「ディアスポラ」の問題について考えることは、国家の枠組みを超えて「ワタン」(アラビア語で故郷)を問い直すことへと繋がる。
本展が開催される岐阜は、かつてナチスの迫害から逃れる人々にビザを発給し、多くの命を救った杉原千畝の出身地である。そのような「ディアスポラ」に縁のある場所で、世界に向けてメッセージを発信し続けるアーティストたちを紹介する。
ランダ・マッダ(シリア)は中東戦争の戦闘によって荒れた部屋を片付ける女性の姿を描いた映像作品《ライト・ホライズン》を出品。本展では、アクラム・アル=ハラビ(シリア)や、ラリッサ・サンスール(パレスチナ)、ミルナ・バーミア(パレスチナ)、そしてムニール・ファトゥミ(モロッコ)、日本のアーティストユニットのキュンチョメらの作品が並ぶ。
現代美術は、いかにして世界の視線をこの状況に向けさせることができるのか。そして、アーティストの中にもまた、故郷を離れ新たな地で制作を続けている者がいる。彼らにとって作品は、自らが置かれた立場の表明であり、時代を写す鏡にもなっている。