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瀝青と音で構想する未来の冥界。アンドリウス・アルチュニアンの日本初個展「Obol」が開幕【3/3ページ】

 ゲスト・キュレーターの岩田智哉は、本展の制作プロセスについて次のように振り返る。「アンドリウスはこれまでビチューメンを作品に用いてきましたが、天然の状態を実際に目にしたことはなかった」。昨年、ふたりが新潟県胎内市を訪れ、地中から湧き出る瀝青を目の当たりにした体験が、本展の方向性を決定づけたという。「その瞬間に、ビチューメンを本展の軸にできるという確信が生まれた」と岩田は語る。

 本展では、実際に新潟産のビチューメンが作品に用いられている。また、山梨県のスタジオでの滞在制作を通じて、「コンセプトとマテリアリティが相互に反応しながら変化していった」と岩田は述べる。素材に触れることで構想が揺らぎ、再構築される。その往還が、本展の構想過程を特徴づけている。

展示風景より © Nacása & Partners Inc./ Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

 空間構成も本展の重要な要素である。岩田が主宰するThe 5th Floorは、元社員寮を改装した親密な空間であり、「鑑賞者と作品の対話が非常にインティメイトに生まれる場所」だという。いっぽう、ル・フォーラムはレンゾ・ピアノ設計による開放的な建築で、ガラスのファサードを通じて銀座の街の光が流れ込む。岩田は「空間を作品で埋め尽くすのではなく、あえて余白を残すことを選んだ」と説明する。展示作品数は多くないが、その空白を音が満たし、レゾナンスを生み出すことで体験の強度を高めている。

 ネオンで描かれた蛇やオボルの銀貨、未来の冥界における儀式を想起させる装置が配される本展は、思弁的でありながら身体的でもある体験を提示する。鑑賞者は、未来の冥界の儀式へと誘われ、その儚い境界を往還する旅へと足を踏み入れることになるだろう。