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瀝青と音で構想する未来の冥界。アンドリウス・アルチュニアンの日本初個展「Obol」が開幕【2/3ページ】

 二重性は本展を貫く重要なモチーフである。鏡像や反転の構造は、アルチュニアンが作曲において用いる時間操作とも響き合う。彼は音楽を「歪んだ時間の建築」と捉え、「音楽は時間そのものを素材として扱うことができる」と語る。時間とは「何かが消滅していく過程そのもの」でもあるが、音楽はその消滅を可聴化する媒体となる。

 また、本展ではビチューメン(瀝青)という素材が複数の作品に用いられている。ビチューメンは、数百万年前の藻類が地中で圧縮されて生じた漆黒の物質である。古代においては聖なる素材としてメソポタミアの神殿・ジッグラトの外壁やエジプトのミイラづくりの工程に用いられたいっぽう、現代では道路舗装や防水加工など世俗的用途へと転用されている。アルチュニアンは「ビチューメンは聖性と実用性という二重性を内包している」とし、「つねにわずかに動き続ける、不安定な素材」だと述べる。

展示作品に用いられたビチューメン(瀝青) © Nacása & Partners Inc./ Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

 アルチュニアンにとって、音もまたビチューメンと同様に「素材」である。「音は決して1ヶ所にとどまらず、つねに動き続ける。既存のシステムを少しずらしたり、壊したりする力を持っている」と語るように、多孔質で内外へと浸透するその性質は、粘性を持つ瀝青と重なる。概念的でありながら身体に直接作用する音は、空間を横断し、展示全体を結びつけるアンセムのように響く。