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「恵比寿映像祭2026」(東京都写真美術館)開幕レポート。多声的な表現が交差する映像祭の現在【2/3ページ】

 2階展示室では、植民地史やジェンダー、儀式、移動といったテーマが、「声」や「リズム」といった非言語的な要素を手がかりに展開されている。

 侯怡亭(ホウ・イーティン)は、戦後台湾社会に残った日本文化の影響を起点に、女性の労働や身体、社会的役割がどのようにかたちづくられてきたのかを読み解く。《レイディたち》(2015)は、1950〜60年代に流行した、日本曲を台湾語でカバーした3曲の歌詞を、布に刺繍したインスタレーション作品である。日本語の原曲が台湾語へと置き換えられることで、当時の労働環境や社会階層、時代の空気が浮かび上がる。本作はあえて完成形をとらず、言語の背後にある植民地史の複雑さを示している。

侯怡亭の作品展示風景。壁面は「歷史刺繡人 Lı̍k-sú Tsiam-tsí lâng―帝国婦」シリーズ(2019)、右のインスタレーションは《レイディたち》(2015)

 あわせて展示される「歷史刺繡人 Lı̍k-sú Tsiam-tsí lâng―帝国婦」シリーズ(2019)では、日本の植民地時代に台湾で設立された家政女子学校の記録写真に刺繍を施す。生け花や刺繍、園芸といった教育を通してかたちづくられた女性像を、刺繍という身体的で反復的な行為によってなぞり直し、当時女性に求められた労働や役割を問い返している。

 アンジェリカ・メシティの《The Rites of When(時にまつわる儀式)》(2024)は、季節の移ろいや集団行為を軸に、社会と人間の関係を捉え直す映像作品だ。もともと7チャンネルで構成された本作は、夏と冬という大きな時間の流れを背景に、人々が集まり、身体を通して環境と関わる様子を描き出す。不安定な社会状況や気候変動が進む現在において、儀式や集団行為をたんなる慣習としてではなく、変化に向き合うための行為として再考している。

アンジェリカ・メシティ《The Rites of When(時にまつわる儀式)》(2024)の展示風景

 チョン・ソジョンの《シンコペ》(2023)は、国境や母語に縛られずに移動を続けるアジアの女性たちを追った映像作品である。長距離列車を比喩に、急速に形成されてきた社会構造や、生態学的な移動のスピードを重ね合わせ、過去・現在・未来を横断する時間感覚を描き出す。

チョン・ソジョン《シンコペ》(2023)の展示風景

 タイトルの「シンコペ」は、音楽用語のシンコペーション(拍の位置をずらすことでリズムに変化を与える技法)に由来する。作品では、ARによって生成されたデジタル植物が都市の風景に重ねられ、現実と仮想、時間と空間が交差する関係性が示される。

 FAMEMEによる《ドリアン王が帰ってきた!》(2024)は、移民華僑の家庭に生まれ育った自身の経験をもとに、家族、儀式、アイデンティティをめぐる問いを描いたドキュメンタリーである。監督ユ・チェンタとの共同制作により、風水に代表される中華圏の価値観や、ドリアン家業を継ぐ者としての葛藤が映し出される。

FAMEME《ドリアン王が帰ってきた!》(2024)の展示風景

 パンデミックによる喪失を経て、再び家業と向き合うFAMEMEの姿は、移動と帰還を繰り返す個人の時間を浮かび上がらせる。同時に、家族観やジェンダー、労働といった問題が、個人の物語にとどまらず、より大きな社会構造のなかで捉え直されている。

FAMEME《ドリアン王が帰ってきた!》(2024)の展示風景

編集部