映像をめぐる様々な選択肢に目をむけ、「映像とは何か」を問い続ける国際フェスティバル「恵比寿映像祭2023」が東京・恵比寿の東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほかでスタートした。2023年の総合テーマ「テクノロジー?」では、アートと技術との対話の可能性について考察する。会期は2月19日まで。
15回目の開催を迎える本映像祭では、16の国と地域から125組、146名の作家が参加する。写真や映像、ビデオ、アニメーションなど、高精細で情報量の多いイメージの制作がテクノロジーによって生み出され日常の一風景となった21世紀において、多種多様な映像表現の実践を検証。アートと技術との対話の可能性を考察し、「映像とは何か」という問いをより深めていくことが目的だ。
今年から実施される「コミッション・プロジェクト」は、日本を拠点に活動する新進アーティストを選出。制作委嘱した映像作品を本映像祭の成果として発表するという試みだ。今回、国内外の審査において選出されたのは荒木悠、葉山嶺、金仁淑(キム・インスク)、大木裕之の4名。
不完全さに価値を見出す荒木の《仮面の正体 海賊盤》(2023)は、アメリカのハードロック・バンド「KISS」のコピーバンド、「WISS(ウィッス)」のドキュメンタリー作品。複製技術の表現として、人間による複製に着目し、そのメンバーの素顔を追うものだ。
葉山による《Hollow Hare Wallaby》(2023)は、2019年のオーストラリア旅行をきっかけに関心を持った、絶滅種・ウサギワラビーにフォーカスする。人間が「人間でないもの」を語る際に生じるズレや違和感を掬い上げ、その対象に押し付けてきたであろうストーリーを剥ぎ取ることを出発点とする。本作はその機会を与えてくれるものだ。
金の作品《Eye to Eye》(2023)は、滋賀県のブラジル人学校・サンタナ学園の人々との共同制作。移民やその地域コミュニティなど、日本人と異なる背景を持つ人々と見つめあうことでその接続を促すものだ。また、大木による《meta dramatic 劇的》(2022)は、自身の領域である「映像 / 映画」「ライブ / パフォーマンス」をテーマに、これらのあいだに生じている全体性の欠如を可能性としてとらえるもので、それらを大木自身が実践をすることで世に問う作品となっている。会期中にはこの4作品のなかから特別賞が決定される。
2階の展示プログラムは、総合テーマ「テクノロジー?」をもとに時代ごとにアートと技術がどのような関係のなかで表現を生み出してきたのかを考察するものだ。宗教や死生観、脳科学、神経科学などの問題が絡み合う世界を強烈なビジュアルで表現するルー・ヤンの「DOKU(ドク)」シリーズ最新作や、2台のカメラで撮影、合成することで異なる空間や時間感覚を生み出す越田乃梨子の作品群、単管パイプが鋭く突き刺さるディスプレイがその本質的な機能を失いノイズを発しているHouxo QUE《Death by Proxy》(2020)など、印象的な6つの作品が展開されている。
同様に地下1階展示室では、都市や自然の諸相をめぐるアーティストたちの表現や、そこに向けられた機械による眼などを歴史を踏まえて考察する内容となっている。
本映像祭は東京都写真美術館のみならず、周辺地域施設にも展開されている。オフサイト展示では、野老朝雄、平本知樹、井口皓太による《FORMING SPHERES》(2023)が登場。東京2020開会式で見せたオリンピックエンブレムのドローン演出を光と影のインスタレーションとして再構築したものだ。
また、恵比寿ガーデンプレイスから3分ほど足を運んだ日仏会館ギャラリーでは、ECAL / ローザンヌ美術大学の写真修士による展示「オートメイテッド・フォトグラフィ」も実施されている。本展では、機械が自動的に生み出す画像や映像に注目し、その美的概念の可能性を探るため批評的な目線で作品を提示するものだ。このプロジェクトはスイス大使館が手がける2025年大阪・関西万博に向けた「Vitality. Swiss」プロジェクトの一環でもある。
ほかにも、本映像祭では上映プログラムやライブ・イベント、教育普及プログラム、スペシャルトークイベントなど多数の企画が実施予定だ。充実した内容であるにも関わらず入場無料(一部プログラムは有料)。15日間という短い期間で行われるこの機会をぜひ見逃さないでほしい。