第1章「モードの変化と新しい身体観」
19世紀末から20世紀初頭に流行していたのが、植物のような有機的で流麗な曲線を特徴とするアール・ヌーヴォー様式だ。この時代はまだ、コルセットで細いウエストと後方にせり出した腰を人工的につくり、レースやフリルを多用するモードが主流だった。アール・デコ期に入ると、女性服は身体の曲線を強調せず、直線的なシルエットを持ち、装飾も控えめになっていく。用途に合わせて1日に何度も着替えていた習慣も、昼のデイ・ドレスと夜のイヴニング・ドレスに簡略化される。こうしたデザインを明確に打ち出したのが、ポール・ポワレやガブリエル・シャネルをはじめとするパリのクチュリエ(服飾デザイナー)たちである。
ポワレは、ドイツやオーストリアで興っていた総合芸術の成果を見分し、その概念をモードへと持ち込んで、ドレスと室内(店内)装飾、身に着けるアクセサリーや香水まで、これまで異なる職人がつくっていたものをトータルでディレクションしてみせた。服飾にとどまらない新しい展開は、追随するメゾンを生み、現代にも継承されている。ポワレが後世に残した功績は大きい。


モードに応じて下着も変化する。コルセットに代わりにブラジャーが登場し、丈がひざ下まで短くなったスカートには、シルク製のストッキングが流布する。
こうした身体観の変化に、表現者たちも反応する。画家は女性たちの姿を作品にとどめ、バレエ・リュスは実験的な身体表現の舞台として話題となる。近年見直しと再評価が進むジャクリーヌ・マルヴァルはそうしたバレエダンサーを明るい色彩で描いた。






















